アイデンティティには同一性だけでなく差異性も含まれる

ヘーゲルがこれに対して有名な処方箋を示しています。

同一性と差異性のアイデンティティです。同一性〔アイデンティティ〕と差異性がアイデンティティを形成しているわけです。

日本は一つのアイデンティティです。それはさまざまな同一性が集まってできたアイデンティティです。東京人のアイデンティティ、大阪人のアイデンティティ、私のアイデンティティ、あなたのアイデンティティなどが。そしてそれぞれは違う。日本という空間に同一性と差異性が結束しているのです。こういう考え方が重要なのではないかと思います。ナショナリズムの対極ですね。

毒親とは子どもを通じて存在し続けたい人

日本では、「毒親」という言葉があるそうですね。

子どもの人生に過剰に干渉して思い通りに育てようとする親が存在し、結果として歪んだ教育が行われる――ドイツ語にも毒親を指す言葉があります。ヘリコプター・エルターン(英語ではヘリコプター・ペアレンツ)です。子どもの頭上を常に飛んでいるヘリコプターのような親という意味です。子どもの人生にドローンのようにつきまとうのです。

桜や桜と青空のドローン
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こうした関係について、親と子の双方の側から、改善の方法はあると思います。倫理学の考え方としては、親子関係においては特に、自分がいつか死ぬという考えをあえてするのです。毒親は一種の不死を手に入れるために子どもに執着するのだと思います。子どもを通じて自分が存在し続けたいのです。現実には自分はいつか死ぬのだと認識しなければなりません。自分がいつまでも生き続けたいという感情は親としてわかります。