景気後退期に失業率が上昇する原因
循環的失業
循環的失業は3つの失業の中でもっとも厄介だ。循環的失業の原因は景気の循環であり、不景気のときに発生する。自発的な失業でもなければ、スキルのミスマッチが原因の失業でもない。景気後退期に失業率が上昇するのは、つねに存在する摩擦的失業と構造的失業に、さらに循環的失業も加わるからだ。循環的失業の本当の問題は、悪循環を生んでしまうことだ。あるグループが循環的失業者になると、彼らは支出を切り詰める。そして支出の落ち込みが不景気に拍車をかけ、さらに循環的失業者が増えるのだ。世界恐慌の時代に失業率が25%まで上昇したのは、この悪循環が原因だとされている。
循環的失業が起こると、政策担当者は財政政策や金融政策で対処しようとする。それに加えて、失業手当などの社会保障によって失業者の購買力を支え、悪循環を回避するという手もある。このような社会保障や累進課税制度など、景気変動を安定させるために財政自体に備わっている装置を「オートマティック・スタビライザー」(自動安定装置)と呼ぶ。究極的に、ここで政策担当者が目指すのは、循環的失業を一掃することだ。
経済にとって最高の状態「完全雇用」
経済が最適の能力を発揮して生産し、景気が過熱することも、大きく落ち込むこともない状態なら、その経済は「完全雇用」の状態だと考えられる。完全雇用とは、ある経済に循環的失業がまったく存在しないことだ。これが経済にとって最高の状態であり、すべての政策担当者の目標でもある。
完全雇用と対をなす概念が「自然失業率」だ。これはともにノーベル賞を受賞した経済学者の、ミルトン・フリードマンとエドムンド・フェルプスが提唱した仮説であり、「長期的には、インフレ率に関係なく経済にはある一定の失業が存在する」と考える。つまり、経済は放っておけばほぼつねに完全雇用を維持し、同時に自然失業を経験するということだ。
自然失業率は一定ではない。摩擦的失業率、あるいは構造的失業率が変化すると、自然失業率も変化する。職探しの時間を永続的に短縮するテクノロジーが登場すれば、摩擦的失業率と自然失業率の両方が低下するだろう。
失業手当が永続的に変化すると、それが手当が増えて失業期間を長くする変化であっても、あるいは手当が減って失業期間を短くする変化であっても、やはり自然失業率に影響を与える。また、労働者の生産性が継続的に向上すると、自然失業率は低下する。