インフレで得する人と損する人は誰なのか。アメリカで高校生に経済学を教えるデーヴィッド・A・メイヤーさんは「インフレで得する人よりも損する人のほうが多い。特に低所得の人ほど打撃を受ける」という――。

※本稿は、デーヴィッド・A・メイヤー『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

うつ病の男
写真=iStock.com/urbazon
※写真はイメージです

インフレとは物価が上昇し、通貨の購買力が下がること

インフレは「勝者」と「敗者」を生む。インフレで誰が勝つのかを知っておくことは、インフレが許容されることもある理由を理解するうえで大切なことだ。インフレが予想の範囲内であり、安定しているなら、それは良性のインフレだ。個人も組織も、将来のインフレに備えて計画を立てることができる。しかし、予想を超えたインフレになると、そこには勝者と敗者が生まれる。どんな人がインフレで得をするのだろう?

インフレで得する人について考える前に、そもそもインフレとは何かということを復習しておこう。インフレとは、物価が上昇し、それに対応して通貨の購買力が下がることだ。借金をしている人は、物価の上昇と購買力の低下から恩恵を受ける。

個人、ビジネス、政府は、たいてい固定金利でお金を借りる。固定金利とは完済するまでずっと利率が変わらない金利のことだ。その利率にはあらかじめインフレ分が織り込まれている。実際のインフレ率がその予想よりも高くなれば、実質の借金額は減ることになるのだ。

たとえば、銀行が5%の名目金利で数十億ドルを貸し出していたとしよう。銀行は2%のインフレ率を予想していたが、実際には4%になった。すると借り手にとっては、実質金利が3%(5%-2%)から1%(5%-4%)に下がる。簡単に言うと、借りたお金のほうが、返すお金よりも価値が高いということだ。

短期的には生産者もインフレで得をする

短期的に見れば、生産者もインフレで得をする。予想外のインフレが起こると、物価は上がるが、労働者への賃金がすぐに上がることはない。賃金が物価に合わせて上がるまで、生産者はより高い利益を上げることができる。

発展途上国の多くは、外国からの借金を返すために、自国の通貨を大量に発行してインフレを起こしてきた。たとえば、アメリカが外国に100ドル(約1万1500円)の国債を買ってもらったとしよう。国内でインフレを起こして100ドルの価値が半分になったとしても、外国に返すのは100ドルでいいので、実質的に借金が半分に減ったのと同じことになる。

実際、アメリカ政府は多額の対外債務を抱えているので、これと似たようなことをするのではないかと危惧する人もいる。ほとんどの先進国には政府から独立した中央銀行があり、政府が好き勝手にお金を刷らないように監視する働きをしている。アメリカでも、FEDは政治的なプレッシャーから守られているので、政府がマネーサプライを増やしたがっていても抑制できる。