個人もビジネスも「面倒な手間」が増える

また、インフレになると個人もビジネスも面倒な手間が増える。お金の価値がどんどん低くなるので、消費者は手持ちのお金を早く使おうとするだろう。すると、しょっちゅうATMに行って現金を下ろさなければならなくなり、いわゆる「シュー・レザー・コスト」が発生する。お金を下ろしに行く回数が増えるので、靴の皮(シューレザー)が早く傷むということだ。

またビジネスにとっては、商品の値札をしょっちゅう貼り替えなければならないというコストが発生する。何度も言っているように、この世にタダ飯はない。だから商品の値札もタダではない。急激なインフレが進むと、値札の貼り替えも頻繁になり、それだけコストがかさむ。さらにインフレが長引くと、従業員が値札の貼り替えに忙殺され、肝心の生産がおろそかになってしまうという問題も発生するだろう。

FEDの歴史に残る「ディスインフレーション」

FEDの歴史で燦然と輝く勝利の1つは、1980年代、ポール・ボルカー議長の指導の下で金利を引き上げたことだ。その結果、2桁まで上がっていたインフレ率が正常の範囲内の4%にまで下がり、大インフレ期に終止符を打つことができた。

デイヴィッド・A・メイヤー著、桜田直美訳『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)
デイヴィッド・A・メイヤー『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)

しかし、当時を体験した人であれば、FEDの政策のせいで、過去数十年で最悪の景気後退に陥ったことも覚えているかもしれない。後からふり返れば、不景気というコストを払ったとしても、インフレの抑制は正解だったと、多くの経済学者は考えている。1980年代以来、アメリカのインフレ率は一貫して安定し、比較的低く抑えられている。いわゆる「大いなる安定期」だ。

ポール・ボルカーがやったことは「ディスインフレーション」と呼ばれている。これはインフレ進行中に中央銀行が金利を引き上げ、その結果としてインフレが抑制されて物価上昇のペースが鈍化することだ。

ディスインフレーションが経済にとっていいこととされる理由はいくつかある。1つは、物価が安定するので、賃金上昇圧力が抑制されること。さらに、物価が安定すると金利も下がって安定し、資本投資のコストが下がって将来の計画が立てやすくなる。しかし、ディスインフレーションのもっとも重要な役割は、生産者と消費者のインフレ期待を抑制することだろう。そのおかげで、経済は安定を取り戻すことができる。

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