失業者の増加は社会にどんな影響を与えるのか。アメリカで高校生に経済学を教えるデーヴィッド・A・メイヤーさんは「失業は大きく3つに分けられる。もっとも厄介なのは不景気のときに発生する『循環的失業』だ」という――。

※本稿は、デーヴィッド・A・メイヤー『アメリカの高校生が学んでいる経済の教室』(SBクリエイティブ)の一部を再編集したものです。

トンネルに坐っていた絶望的な男
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失業は3つに分けられる

失業にはさまざまな種類があり、経済学者は分類の理由を定性的に定義している。「定性的」とは、数値化できない要素の「性質」に着目して分析することだ。

失業は大きく3つに分けられる。本人にとっても経済にとってもプラスになる失業、本人にとっては災難だけれど、経済にとってはプラスになる失業、そして本人も経済にもマイナスになる失業だ。それぞれ「摩擦的失業」、「構造的失業」、「循環的失業」と呼ぶ。次から、それぞれがどのようなものかを説明していく。

「失業率0%」は経済にとって悪いこと

摩擦的失業

失業率が0%になるのは、経済にとっていいことなのだろうか? それとも悪いことなのだろうか? 答えは、ほぼ間違いなく「悪いこと」だ。

働く意思があり、すぐに働ける状態であっても、新しく労働市場に参入するときや、前の仕事を辞めて次の仕事を探しているときなどに、一時的に失業の状態になることもある。この状態が摩擦的失業だ。働き口があり、働きたい人がいるからといって、仕事と労働者が自動的にマッチングされるわけではない。摩擦的失業と呼ばれるのは、両者がマッチングするまでにさまざまなハードル(摩擦)があるからだ。

適材適所の仕事にきちんと就くまでには時間がかかる。そして仕事と労働者が正しくマッチングすると、本人にとっても社会にとっても利益になる。機械工学の仕事に適しているのはエンジニアであり、トリマーではないということだ。

摩擦的失業率は元々それほど高くない。テクノロジーの発達によって職探しの時間が短縮された結果、以前と比べてさらに低くなっている。オンラインの職探しが可能になり、さらにSNSも登場したおかげで、多くの労働者は職探しの時間を短縮することができた。

摩擦的失業率が国によって違うのは、政府によるインセンティブが原因になっている。手厚い失業保障がある国は、次の職に就くまでの時間が長くなる傾向があり、そのため摩擦的失業率も高くなる。