キリンとサントリー、三菱ケミカルと三菱レイヨンが経営統合に向け、交渉に入ったことが明らかになった。経営統合が成功するには、統合した事業体が経済合理性と組織合理性を兼備している場合に限ると筆者は説く。
経済合理性による3つの経済的効果とは
このところ、大型の経営統合のニュースがマスコミを賑わせている。7月にはキリンとサントリーの経営統合、8月には三菱ケミカルによる三菱レイヨンの買収、という報道が流れた。いずれも、当事者たちがその方向への協議を進めていることを認めている。
日本の多くの産業で、産業内の地図、つまり企業間の勢力分布が必ずしも経済合理性の高いものになっておらず、細かく多数の企業に分かれての資源の分散や重複が産業全体で起きている。それが、結果として企業の競争力を不十分なものにしている。国内の市場が人口減少とともに縮小傾向にあり、かつグローバルな展開への体力を考えると、経営統合はもっと起きてもいいように思う。
しかし、キリン・サントリーと三菱ケミカル・レイヨンの2つのケースについては、それぞれ異なった感想を持たざるをえなかった。やや強い表現を使えば、前者については「なぜ?」、後者については「なるほど」という感想である。
三菱ケミカル・レイヨンの組み合わせでも、当事者である2つの企業の現場では、「なぜ?」という反応があったかもしれない。しかし、化学産業全体の将来像や2つの企業の技術的補完性や相乗効果の可能性をグローバルな展開の中で考えれば、「なるほど」なのである。
キリンとサントリーの場合も、2つの企業の現場では大きなサプライズであったろう。私のような外部の観察者の立場からも、多くの「なぜ?」を感じてしまう。もっとも、詳しい内部事情や将来プランという現在では外から「見えない」部分に「なるほど」への秘策がかくされているのかもしれない。
経営統合が成功するのは、統合した事業体が経済合理性と組織合理性の2つを兼備している場合に限る。この2つの合理性の総体が、企業としての合理性である。経済合理性とは、2つの企業の資源を合体させることから、3つの経済的効果が大きく期待できるか、ということである。それは、合体後の規模の拡大がもたらす規模の経済、合体後の資源の相乗効果がもたらす範囲の経済(さまざまな事業範囲を持つことによる経済性)、合体後に資源の重複をなくすことによるムダの排除、この3点である。組織合理性とは、新しく生まれる事業体が組織文化を融合できるか、経営組織体制をきちんとつくれるか、という問題である。
キリン・サントリーの場合、組織合理性についての懸念を私のみならず多くの人が持ったようである。2つの企業はあまりに組織文化が違う。経営体制についても、サントリーのオーナーファミリーである佐治家の統合後の株式支配力が過大にならないか、という懸念がある。統合企業の3割近い株式を佐治家が手に入れかねないからである。