「世紀の買収」はなぜ失敗したのか
経済合理性についても、プラスが大きいのか、疑問の余地がありそうだ。規模の経済が生まれるとすれば、すぐに思いつくのは国内流通との交渉力や原材料調達での交渉力という規模の効果であろう。しかし、キリンとサントリーがもっとも競合しているのは飲料分野で、ここにはすでに日本コカ・コーラという巨人がいるし、さらに他の飲料メーカーも多い。流通との交渉力でそれほど大きな効果があるだろうか。
範囲の経済についても、たしかに統合後の事業体は酒類についてはさまざまな分野の酒類を一手に担う真の総合酒類メーカーになるだろう。サントリーのウイスキーやワインが、キリンのビールに加わるのである。
しかし、その効果が流通面ではある程度期待できるとしても、それほど大きな効果だろうか。そして消費者の側から見れば、酒類総合メーカーなど別になくてもいい。酒の種類ごとに自分の好きなブランドを買えばいいからである。
そして、第三の経済合理性である資源重複のムダの排除であるが、飲料を除けば2つの企業の製品分野はかなり補完的である。つまり、単純なムダの排除の余地はそれほど大きいようには見えない。
経営統合の成功例としてよく語られるJFE(川崎製鉄とNKKの統合)の場合、経済合理性も組織合理性もかなり周到につくり上げられたと思われる。技術の相乗効果もあったが、高炉の廃棄などのムダの排除による効果が大きかったようだ。組織合理性についても、川鉄側が主導権を握りつつ、人事などの細かな配慮を融合のためにしている。たとえば、高炉の廃棄は川鉄側の廃棄、人事の統合後すぐにガラガラポン、などである。
経済合理性も組織合理性も、いずれも事業統合を真剣に考えることを前提とした合理性である。しかし、統合の事業面でのメリットは大きくなくてもいい、財務的効果だけでいい、という割り切った考え方もできる。
まず第一に、単純に統合後の企業規模は大きくなり、利益額も統合以前の単独企業の場合よりは大きくなるだろう。財務的には、統合後の継続会社の企業業績は一応は向上するのである。
第二に、企業買収に関わる2つの財務的メリットがありうる。統合後の企業が買収する側に回る際のメリットと買収される側になったときのメリット、それぞれである。
統合後の企業が国際的にさらに拡大していくために企業買収を海外で行う可能性はすでに報道で指摘されている。その際の買収資金の確保が統合によって楽になりそうなのである。