中国の2009年上半期の国内新車販売台数は、不振の米国、日本を尻目に世界最大規模となった。中国経済の成長エネルギーの大きさは、日本にとって輸出市場としての意義を超えた福音になりうると筆者は説く。
中国が7.9%成長のV字回復を遂げた理由
中国の国内自動車販売台数が、今年の上半期にとうとう世界一になった。昨年同期比で17%増の609万台の規模である。世界2位のアメリカ市場は480万台、3位の日本市場が218万台だから、ダントツの世界一である。
日米両国の市場が縮小していく中で、17%の成長である。いくら中国政府による消費刺激策が功を奏したといっても、日本でもエコカー減税はやっている。しかし日本はマイナス成長なのである。
今年の第2四半期の経済成長率で見ても、中国は7.9%成長へとV字回復をし始めた。経済の成長活力での日米との違いが歴然としてきたのである。
それはたんに今回の経済危機への反応の違いというよりは、もっと大きな歴史的な流れの中に位置づけるべき成長エネルギーの違いであろう。私は昨年8月のこのコラム(2008年9月15日号)で北京五輪の見事な開幕式を取り上げ、その日がまさに、サブプライム危機の最初の大きなイベントとなったパリバ銀行によるサブプライムファンドの取引停止発表のちょうど1年後だったことを指摘した。そして、見事な開幕式はアメリカから中国へと世界の覇権が太平洋の時代から東シナ海の時代へと移っていく象徴のように見える、と書いた。
それを書いたときの私は、1カ月後の9月15日にリーマンが破綻するとは思ってもいなかった。しかし、実際にはサブプライム危機がリーマンショックとなってしまい、世界経済の大混乱が始まってしまった。その混乱の砂塵が少しずつ晴れてくると、やはり中国経済の成長エネルギーの大きさが姿を見せ始めた。自動車国内販売の報道も経済成長率のニュースも、指し示す方向は同じなのである。
そうした中国経済の成長活力が日本の企業経営にとって何を意味するのか。個々の産業や企業の置かれた立場によってもちろん具体的な答えは違うであろうが、日本全体にとっての意味を考えるべきであろう。
経済の成長活力と書くと、多くの日本企業は「成長市場の魅力」をまず感じるであろう。たしかに中国市場は日本企業の供給の受け口として、魅力的な大きさをもつに至っている。
しかし、一時的に停滞しているとはいえ、アメリカ市場もEU市場も市場としての魅力はまだまだ大きい。人口減少で国内市場が縮小していく運命にある日本企業にとって、中国市場だけでなく、アメリカもEUも大切なのである。ただしその中でもたしかに、成長性の高い中国の魅力は大きい。
だが、10年前の日本企業にとっては、中国の最大の魅力は決して中国国内の需要の大きさではなく、生産基地としての魅力、低賃金の魅力だった。その魅力は、たしかに日中の賃金格差は縮まってきてはいるものの、まだまだ大きい。
しかもこうした生産基地としての魅力は、たんに賃金格差だけによって生まれるものではなく、人材供給力によっても生まれる。高度成長期の日本企業が、国内の地方工場に人材源を求めたのと同じような理由で、縮小する日本国内の労働人口を補うためにも、中国の生産基地は日本企業にとってこれからも大きな意味をもつのである。