米国最大の自動車メーカーGMが2009年6月1日、倒産した。偶然にも80年前の1929年は、ウォール街で株式大暴落を迎えた時期だった。筆者は歴史を振り返り、米国で「失われた10年」が始まったと説く。

2年以上前から倒産へ歩んでいたGM

アメリカ最大の自動車メーカーGMがとうとう倒産した。

その倒産の原因は、2008年9月のリーマンショック以後の世界経済の大不況ではない。たしかに、最後の引き金を引いたのは世界不況だろうが、その前からGMは倒産への道を歩んでいたように私には見える。

ちょうど1年前の08年7月14日号の「経営時論」で私は、GMがアメリカ市場ですらトヨタに首位を明け渡す日が近い、GMの経営は株主重視で投資軽視のスタンスがどんな結末を企業にもたらすかの警鐘だ、と述べ、「GMの倒産という事態すら、もはや絵空事ではなくなってきている」とはっきり書いた。じつは、私がGMの倒産のかなり高い可能性を講演などで言い始めたのは、 その2年以上前からだった。GMの経営は長期的発展を考える理屈に合っておらず、また財政状態もきわめて厳しいと考えたからである。

1年前にも書いたことだが、GMの倒産はたんに一企業の倒産の話ではない。自動車産業は、鉄鋼・タイヤなどの素材から制御のためのエレクトロニクス部品まで、じつに多様な素材・部品を使用する、総合ものづくり産業であり、しかもその規模が桁外れに大きい。一つの国の産業構造の中核、機械産業の基盤をなす産業なのである。その産業で最大の企業が倒産する、そして第3位のクライスラーも倒産、フォード・モーターもいつまでもつのかよくわからない。

それで、アメリカは自国の産業基盤を今後どうやって維持していくのか。金融で食っていくから大丈夫だ、というのがリーマンショック以前の答えであろう。しかし、その金融業もこのショックで大打撃を受け、アメリカからじつは投資銀行がなくなってしまった、とすらいうべき状態なのである。

GMの倒産が09年という年に起きたのは、何かの因縁だろうか。

その80年前の1929年、アメリカはウォール街の株式大暴落をきっかけに大恐慌へと突入していく。その後の30年代、アメリカは低迷を続ける。大恐慌の最悪の時期には、失業率25%、国のGDPは29年比4割減、というすさまじい状況になったのである。

その30年代を表現する言葉が、「失われた10年」であった。「失われた10年」あるいは“Lost Decade”は、30年代の終わりに書かれたアメリカの小説家スコット・フィッツジェラルドの短編小説のタイトルでもある。彼はアメリカの当時のLost Generationを代表する作家といわれるが、失われた世代とは失われた10年(30年代)に青年期を過ごした世代のことである。