日本国内を新型インフルエンザの脅威が襲ったが、感染の流行を示す大阪、兵庫の発症者数はピークを越え、感染ルートの解明も進んできた。筆者は今回の国内感染への対応の経験から、企業がより深刻な事態に対応するための3要点を説く。

 

もし国内感染が冬に東京で起こっていたら

新型インフルエンザの爆発的な拡大は防ぐことができたようである。沈静化したのか、一時的な小康状態なのか、誰にもわからない。少なくとも大きな社会的脅威にはならなかったという意味では、リスク管理はうまく行えたといえるのかもしれない。しかし、今回は幸運に救われたという側面もある。季節が春から初夏にかけての時期であり流行を防ぐのにはよい時期であったこと、ウイルスの毒性が弱かったため深刻な問題にはならなかったのである。

「国内感染の発生が神戸でよかった」ということも言われている。私のような神戸の住民にとってはあまり心地よくない発言だが、確かに東京で国内感染者が出た場合の経済的損失と比べれば、損失は軽微だったといえるかもしれない。地震のときにも同じような声が聞こえてきたのを思い出してしまうのは、神戸の住民の不幸な自虐意識からくるものだろうか。

しかし、もし国内感染が冬に東京で起こっていて、しかも毒性が強かったとしたら、今回のような対応をしていたら深刻な事態がもたらされていたかもしれない。国のリスク管理、企業レベルの対応に関しても反省すべきことがいくつかある。最初が神戸であれどこであれ、国内で感染者が出てしまったというのは、水際対策がうまく行えなかったということを意味する。

今回の例は、国際的な往来が活発な現代社会で流行病を水際で止めることの難しさを思い知らせてくれた例だろう。そもそも、このような流行病を水際で止めるという目標そのものが適切だったのかどうか深く考えてみる必要がある。水際対策の場合には、国ないし国際機関の判断をもとにしたトップダウンのリスク管理が必要であり、有効でもある。

しかし、いったん水際対策に漏れができて国内感染があちこちで起こり始めた後では、企業や自治体ならびに一般家庭といった個々の組織体レベルのリスク管理が必要になる。今のところ社会的・経済的な損失は相対的に小さいとはいえ、今回の対応から学ぶことのできることは多いはずである。

今回の経験は、個々の組織体レベルのリスク管理について考えなおす貴重な機会となった。上手に反省しておけば、より深刻な事態により上手に対応できるようになるだろう。一種の予行演習だったといえるかもしれない。今回の経験を振り返って学ぶための要点を整理しておこう。私は考えるべき要点は3つあると思う。