そのような事態に備えるための基本的な手段は、最悪時の事態にならないようにするという対応策である。しかし、この対応策は大きな犠牲を伴う。想定外のことが起こったとき誰が対応策を指示するのかを考えておく必要がある。その決断は組織のどのレベルで行うのが適切か。トップで決めると、柔軟かつ大胆な対応が取れるが、一部で過剰が起こったり、不足が起こったりする。下のレベルで決断が行われると、決定が小出しになりがちであり、硬直的な対応が起こりがちである。事前のシミュレーションが必要である。今回の経験はそのシミュレーションになったはずである。先に予行演習といったのはこの意味である。

最後は、平時への復帰のタイミングである。緊急事態はいつまでも続けるべきではない。緊急時にはリスクへの対応が最優先課題となり他の目的は軽視されがちである。逆に言うと、リスク対応には犠牲が伴うのである。永続的な組織体では、複数の目的をバランスよく実現することが必要である。いつまでも犠牲を払い続けるわけにはいかないのである。平時への復帰の決断が必要だ。そのタイミングが早すぎるとリスクが再発するかもしれない。逆に遅すぎると、犠牲が大きくなりすぎる。

企業の内外には多くのリスクがある。残念なことに、企業はリスクを避けることはできない。今回の新型インフルエンザもそのようなリスクの一つである。幸いにして影響は軽微であったが、この経験をもとに深刻に考え直すべきことはあるはずである。