こうして市場と生産基地の2つの側面から、日本列島の産業構造は中国の影響を深く受けるのである。しかも、日本国内の産業構造は中国との分業体制と深くかかわることになる。すでに中国との生産ネットワークは複雑な形で日本列島の産業構造の中に組み込まれている。その分業体制がさらに深化することが、中国大陸の二重の意義ゆえに、歴史的に必然なのである。
こうした中国との国際分業体制の深化は、日本の安全保障のうえでも意味をもちそうだ。国際分業による日中の相互依存が深まるにつれて、日中がともに相手方を必要とする度合いが高まるからである。それは、日本の安全保障が中国にとっても大きな意義をもつことを意味する。
日本や日本企業の安全を脅かそうとする行動をどこかの国の政府あるいは非政府組織がとろうとすると、その被害が中国経済にも及ぶようになる。日本の生産の安全は、分業体制の中での相互依存を通じて、中国の経済的安全の問題につながるからである。
おそらく、こうした安全保障上の意義をも考えた国際分業体制をつくるような意図的な努力が、日本政府や日本企業に求められているのであろう。そしてもちろん、中国との国際分業は経済的にも日本企業と日本列島を潤すであろう。
そこまで考えれば、今回の経済危機の後での中国経済の成長エネルギーの大きさは、日本にとってたんに輸出市場としての意義を超えた、二重三重の福音になりうるのである。ただし、「なりうる」のにすぎない。大きな福音に本当にできるかどうか、日本企業と日本政府が試されている。