※本稿は、佐藤大介『ルポ 死刑 法務省がひた隠す極刑のリアル』(幻冬舎新書)の一部を再編集したものです。
死刑囚たちはどのようにして最後の時を迎えるのか
確定死刑囚にとって、逮捕・起訴されたときから始まる司法当局との攻防は、死刑執行をもって終わりを迎える。同時に、司法当局にとって死刑執行は、確定死刑囚に対する最後の「手続き」になる。確定死刑囚と司法当局のどちらにとっても、死刑執行が重く厳粛な「儀式」であることに違いはない。
法務官僚と法相、法務副大臣の決裁を受けた後、法相名による「死刑執行命令書」が検察庁に届くと、対象となった確定死刑囚が収容されている拘置所長には、管轄の高等検察庁から死刑執行の指示がくる。
その後、拘置所では秘密裏かつ入念に死刑執行の準備が施され、当日の朝を迎える。確定死刑囚たちは、どのようにして最期の時を迎えるのか。関係者の証言や公開されている資料などから、その模様を探ってみたい。
死刑執行は年末年始を除く平日にしか行われない
刑務所、拘置所などの刑事施設を運営する根拠法としては、2005年に制定された「刑事施設及び受刑者の処遇等に関する法律」(現在は「刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律」)に死刑執行に関する条文があり、第16節には「死刑の執行」として以下の規定がある。
2 日曜日、土曜日、国民の祝日に関する法律(昭和23年法律第178号)に規定する休日、1月2日、1月3日及び12月29日から12月31日までの日には、死刑を執行しない。
ここからわかるのは、死刑執行は年末年始を除く平日に行われるということだ。単純な事実だが、事前告知のないなかで、確定死刑囚は平日の朝は常に執行の恐怖におびえることになる。
実際には死刑執行は木曜日か金曜日に行われることが多いが、明文化された決まりというわけではない。大阪・池田小学校児童殺傷の宅間守元死刑囚が大阪拘置所で死刑執行された2004年9月14日は火曜日だった。
独居房に収容されている確定死刑囚たちは平日の朝、廊下を歩く看守の足音などに神経をとがらせ、いつもと違う動きがあれば敏感に反応するという。そのような雰囲気を察知すれば、死刑執行のサインと読み取るからだ。