NHKの連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」が視聴率で苦戦している。本作だけでなく、「朝ドラ」は直近2作が視聴率20%以下で、右肩下がりになっている。コラムニストの矢部万紀子さんは「朝ドラらしい良作なのに視聴率が低空飛行している原因は、NHKの放送スケジュールにある」という——。
11月に放送開始した連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK)
画像=NHKのウェブサイトより
11月に放送開始した連続テレビ小説「カムカムエヴリバディ」(NHK)

朝ドラが描く「何者かになりたい」ヒロインの姿

朝ドラ「カムカムエヴリバディ」の視聴率が振るわない。11月1日からスタートし、第1週の平均視聴率(ビデオリサーチ調べ、関東地区、世帯視聴率=以下、すべて)が15.5%、2週が16.0%、3週は15.7%。ここまでのところ、前作「おかえりモネ」の期間平均視聴率16.3%を超えた週はない。

「カムカムエヴリバディ」はとてもよくできた朝ドラだ。個人的には、2017年に放送された「ひよっこ」以来の佳作だと思っている。それなのに、視聴率がついてこない。なぜなのだろうか、を考えていく。

自分のことから書くと、長く会社員生活をし、長く朝ドラを愛してきた。「何者かになりたい」ヒロインの姿に自分を重ね、慰められ、励まされてきたからで、『朝ドラには働く女子の本音が詰まってる』(ちくま新書)という本も出版した。女性の生きる困難さ、一生懸命さの先に見えてくる明かり、それがウエルメイドに描かれると心をもっていかれる。

8話のあるシーンで「良い作品だ」と確信

「カムカムエヴリバディ」は、間違いなく名作の系譜に入る。岡山の小さな和菓子屋の娘・安子(上白石萌音)の「身分違いの恋」を胸キュンで描きつつ、「働く女子もの」になる萌芽も見える。しかも恋の相手=繊維会社の跡取り息子で大学生の稔(松村北斗)が、高身長でハンサム。私好みで期待しかない。

2人は15話で結婚、安子は16話で出産した。早い展開だが、心理描写は周辺人物も含め、すごく巧みだ。何度も涙を流して見ているが、中でも印象的だった2話があるので紹介する。

恋愛シーンで心をもっていかれたのが8話だ。父に見合いを勧められた安子は、会いたくて稔の大阪の下宿を訪ねる。この近くに紅白饅頭を届けに来たと嘘をつく安子。2人で楽しく過ごして帰る汽車でこらえ切れず泣き出し、岡山に着いても立ち上がれない。人が近づいてきたので「すみません、すぐ降ります」と言って立つ。すると、そこに稔。「なぜ?」と驚く安子に、そんな小さい鞄一つで配達だなんて、と稔。

胸キュンとはこのことだ。稔、追いかけてきたのね。ステキ。「なんで泣いてるん? 安子ちゃん、何があったの?」という台詞に「韓流ドラマか」と心でつっこむ。巧みな恋愛シーンはかの国の専売特許のようになっているが、我が朝ドラだって負けてはいない。そう、働く女子に恋愛は必需品。父の勧めと恋心、その板挟みで泣く安子。その切なさが、まるで自分の切なさのよう。これはいい朝ドラだ、と確信した。