兼高かおる
1928年、兵庫県神戸市生まれ。ロサンゼルス市立大学留学後、フリージャーナリストとして活躍。1958年、プロペラ機による世界一周最速記録を樹立する。1959~90年、テレビ番組「兼高かおる 世界の旅」をナレーター、ナビゲーター、プロデューサー兼ディレクターとして制作。どんな状況にも体当たりで臨む抜群の取材力と上品な語り口で世界に対する視聴者の興味を誘い、人気番組に成長させる。2010年9月『わたくしが旅から学んだこと』を上梓。現在も世界や国内各地への旅を継続中。
「世界の旅」(1959年から31年続いた旅番組)の仕事をしていた頃は、さまざまなものを食べました。わたくしは体がとても丈夫ですから、よほど非衛生的なものを除いて、現地の食事をとります。シンガポールや香港の路上マーケットなど、屋台の食事も好きでした。東南アジアでは、毎晩家族が揃って、夕涼みを兼ねて屋台に夕食をとりに行きます。わたくしの母親は家族につくりたての料理を食べさせるため、台所と食卓を往復していましたので、これはいいシステムだなぁと思ったものです。
ときどき「あの国の料理はまずい」と聞きますが、わたくしは料理がまずい国はないと思います。おいしくないものに当たった場合、それは良くない店を選んだか、自分の好みに合わなかったかです。たとえばイギリスは料理がいまいちなんて不名誉な表現をされますが、フィッシュ&チップスも、新鮮な魚を使いつくりたてをいただけばおいしい。パブにも安くておいしいものが置いてあります。仕事上、有名レストランでの食事も多くありましたが、どこの国でも現地の家庭にうかがって、その家のお母さんがつくる家庭料理がもっともおいしいと私は思いました。
「世界の旅」に携わっている間は仕事に打ち込んでいて、ほとんど友人との付き合いをしてきませんでしたが、今は友人に誘われて新しいレストラン巡りをしたり、居酒屋やバーにも行きます。煙草は嫌いなので周囲の方が遠慮してくださいます(笑)。お酒は好きで、食事の際には欠かしません。昨日は築地の魚河岸で日本酒、今日のように中国料理なら紹興酒をいただきますね。
わたくしはホテル経営を目指していたほどホテルが好き。清潔で雰囲気もサービスもいいので、ホテルのレストランやバーをよく利用します。ただ、ホテルのバーは町場のバーと違って、閉店時間になるとおしまいにしなければいけないのが残念。でも健康にいいので、これも結構です。
いまも海外へ出かけますし、日本各地への旅もしています。少し前に日本海に浮かぶ島々・隠岐を訪れましたが、たくさんの神話が残る、歴史のある美しい土地でした。ここで隠岐牛の焼き肉を食べました。隠岐牛というのは初めて知りましたが、おやっと驚くほどのおいしさでした。ホテルのレストランが技巧を凝らした味だとしたら、隠岐で出合ったのは素材の持つ力強い味。めかぶを焼いて食べるのも初めての経験でしたが、これがすばらしいこと。あの味を味わいに、今すぐにでも隠岐に行きたいくらいです。隠岐まで行けない方は、対岸の鳥取牛もお勧めです。オレイン酸たっぷりで、隠岐牛に劣らずおいしいですよ。