池田清彦
1947年、東京都生まれ。東京都立大学大学院生物学博士課程修了。現在、早稲田大学国際教養学部教授。専門は、理論生物学、構造主義生物学。著書に、『環境問題のウソ』『がんばらない生き方』『「進化論」を書き換える』や、虫仲間の養老孟司との対談集『ほんとうの復興』など。テレビ番組「ホンマでっか!?TV」の歯に衣着せないコメントで人気がある。酒は毎晩たしなむ。今は泡盛の古酒が多い。「自分の体に聞けばいいので」、健康診断はここ5~6年は受けていない。
少し前から、「草食系男子」なんてことが言われてるでしょ。でも、人間は生物学的に見れば、本来「雑食」なわけ。だから、何でも食べられる。
人類のはじめの頃にアウストラロピテクスという猿人がいて、その後に進化したパラントロプスが出てきた。このパラントロプスの臼歯(きゅうし)というのが、バカでっかい。きっと、種子を食っていたからだと思う。種をバリバリと食うんだから、すごい歯だよ。草を食べるナヨナヨっとした歯と違う。でも、種だけ食べていたんでは、やっぱり栄養が足りない。栄養が足りないから、脳が大きくならなかった。脳をでかくするためには、タンパク質が必要だ。
そこで人類は、まず屍肉(しにく)食いを始めたようだ。生きた動物を狩るような力がなかったからね。屍肉食いをする動物のことを、スカベンジャーと呼ぶけど、つまり死骸を見つけては食べていたということ。ハイエナやカラスみたいなものだ。
なぜ、そんなことがわかったかというと、その頃の人類の骨を分析すると、ビタミンAの過剰症が見られるから。ビタミンAというのは、ライオンやトラなど肉食獣の肝臓にたくさん含まれているものだから、そうしたものを食っていたに違いない。人間が道具もなしにライオンやトラを狩れるとは思われないから、屍肉をあさっていたんだろうね。
そのうちに、だんだんと栄養が良くなってきて、脳が発達してきた。すると、道具も使えるようになって、狩りができるようになった。人類もハンターに変身したってことだ。
原始の人間は、腐ったものを食べても食あたりをしなかったんだから、すごいよ。いま「草食系」と言われている人間も訓練すれば……、いややめとこう。
僕は立派な現代人だから、腐ったものなど食べません。今回紹介したように、お寿司が大好き。寿司屋ばかり2店も紹介するのは芸がないので、3店目を考えたが、なんとこれまた寿司屋で、編集者に呆れられた。
「いずみ」は、とにかく手の込んだ料理を出してくれる。ネタもすべて何らかの手が加わっている。ご主人が全国を歩いて探してきた食材を使って、お客さん一人ひとりに合わせて、その日の献立を考えてくれる。
かたや、「梁川」は、オーナーが築地でマグロを扱ってるだけあって、新鮮で美味しく、しかも安い。マグロ好きの僕には、たまらない。大学から近いし、職員やゼミOB、時には学生たちを連れてゆくこともある。
最近の「草食系」の学生たちは、飯食わせてやるぞ、酒飲ませてやるぞと言ってもあまり喜ばない。「バイトがあるので」などと言い出す始末だ。僕なんか学生の頃は、先生がそう言ったら、何が何でもついていったけどね。