爆睡している乗客を確実に起こす方法

お客は数枚の万札を投げつけ、私の無線番号を独り言のように復唱しながら勝手に降りていった。お札を拾い集めると5枚ある。料金は2万円強だったので明らかに支払い分が多い。

書影
内田正治『タクシードライバーぐるぐる日記』(三五館シンシャ)

私はすぐに会社の無線室に状況を伝えた。無線室からは、とりあえずそのまま持ち帰り、営業所に提出するようにとの指示があった。その後、その客から会社にクレームの電話が来た。「メーターより多く支払ってしまったので、返金してほしい」という。

あのとき、すぐに会社に連絡していなければ、私は横領犯にされていたかもしれない。会社が精査したところ、私に落ち度はなく、もらいすぎた金額分を会社側が返金することになり、それで済んだ。降車時の独り言は無線番号を忘れないための復唱だったのだ。

それにしても恐ろしい策略である。

辞める間際、もっとも効果的な起こし方を同僚に教わった。携帯電話の着信音である。この音を鳴らしてお客の耳にあてると、ほぼ100%の確率で自然に目を覚ました。これをお客で試して実証したときは、あと何年か早く知りたかったとうなったほどだ。

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