財閥系3社を追い抜き、時価総額トップに

伊藤忠商事は日本のベンチャー企業にも投資をしています。その一つが、後払いのカードレス決済を提供しているPaidy(ペイディ)です。海外ではすでに後払いのサービスが非常に成長していて、そこに投資をしていた海外の投資家も、同じモデルが日本でも通用するだろうと投資しています。

ECでは後払い決済が一般的ですが、Paidyのサービスでは、リアルの場で現金を持っていなくても、カードや事前登録の必要もなく、メールアドレスと携帯電話の番号だけで後払いができます。同じく金融サービスでは、pring(プリン)というスマホアプリを用いた電子決済や送金サービスを手がける日本のベンチャー企業にも出資しています。GAFAと同様に、金融業界への進出にもウエイトを置いていることが窺えます。

その後、2021年7月には、グーグルが日本での金融事業に本格進出するためにpringを買収するとの報道があり、9月には、同様にPayPalがPaidyを買収するという発表がありました。この分野が地殻変動の中心であることがわかります。

このような取り組みは、市場からも評価されています。三菱商事、三井物産、住友商事という財閥系総合商社の後塵を拝していた伊藤忠商事ですが、2020年に、総合商社の中で初めて時価総額トップに躍り出ました。

3大商社も急ピッチでDX事業に取り組んでいる

もちろん、他の総合商社も改革を進めています。伊藤忠商事の動きに連動するように、CVC(コーポレートベンチャーキャピタル)やインキュベーションラボを設立するなど、動きを活発にしています。

三井物産はイノベーションのアイデアを実際にビジネスとして事業化する「Moon Creative Lab(ムーンクリエイティブラボ)」を設立し、すでにいくつかのサービスを立ち上げています。住友商事は、グループ内のSIerやメディア企業、小売業者などを中心に、全社的にBtoB(法人向け)のDXに強い商社であることを打ち出す取り組みやブランディング戦略を行なっています。

三菱商事は「エムシーデジタル(MC Digital)」というデジタルテクノロジーカンパニーを2019年に設立。同社を通じて、三菱グループ全体のDXを進めています。欧米のカーナビゲーション市場でトップシェアを誇る、ヒアテクノロジーズ(HERE Technologies)という企業にNTTと共同で出資したりもしています。三菱商事はグループにローソンや成城石井といった小売事業を持っており、そのネットワークが強みですから、そこに地図データを掛け合わせることで、物流などのシナジーを生み出そうとしている戦略が窺えます。最近ではアマゾン向けに太陽光などの再生エネルギーの供給を発表しています。

さらに補足すれば、三菱商事はPontaというポイントネットワークを持っています。Pontaで得たデータを掛け合わせ、データを活用した商品のレコメンデーションなどができれば、さらに大きなデジタルの価値を生み出す可能性は十分にあるでしょう。