紙の書籍と電子書籍には決定的な違いがある。ITジャーナリストの三上洋さんは「紙の書籍は所有物だが、電子書籍には所有権はない。あくまでも『利用権の購入』なので、規約違反などでアカウントが停止されれば、すべての蔵書を一瞬で失うことになる」という――。

Kindleに保存した4000冊の本が突然読めなくなった

2021年8月下旬に「Kindleの4000冊の蔵書が吹っ飛んだ」という匿名の投稿が話題になりました。投稿者は、Amazonギフト券をほかから安く買って定期的に使用していたことから、Amazonアカウントが永久凍結され、結果としてKindleにあった約4000冊もの電子書籍が消失してしまったというのです。

匿名記事とは言え、実際にありえる話です。Amazonの規約には、不正利用やギフト券の不正使用などがあった場合、アカウントを停止すると書かれています。もしAmazonアカウントが停止されれば、Kindle用の電子書籍が一切読めなくなってしまうのです。

この記事の「ほかから安くAmazonギフト券を買った」ことが不正にあたるのかは後述しますが、いずれにしてもAmazon側が不正だと認めれば私たちの電子書籍は消失してしまうことになります。

電子書籍は「利用権」を買っているだけ

もしこの記事の筆者がKindleではなく紙の本で買っていたら、Amazonは「本を返せ」とは言いません。当たり前のことですが、紙の本を買うことは所持することであり「所有権」は購入者にあるからです。

それに対して電子書籍のほとんどはそのプラットフォーム(Amazonなどの提供者)上で読むことができる「利用権」を販売しています。つまりユーザーはそこで読む権利があるだけで、電子書籍そのものは所持していないのです。

そのためAmazonアカウントが何らかの理由で停止されてしまうと、Kindleの蔵書すべてが読めなくなってしまいます。手元に残る紙の本に比べると、アカウント停止によるリスクがあります。

また電子書籍には、サービス自体の終了というリスクもあります。電子書籍ストアの終了についてまとめている記事「電子書籍はサービス終了したら読めない?対応事例一覧と最善の対策方法(to be SOLDOUT)」によると、これまでに10社以上のサービスが終了しています。

電子書籍ストアがサービス終了すれば、そこで読めた電子書籍は読めなくなります。その代わり、他社への移管、ポイントなどでの返金、アプリへのダウンロードといった何らかの補償が行われるのが一般的です。

しかし、これらの補償が万全とは言えません。アプリにダウンロードして電子書籍が引き続き読めるとしても、そのアプリの更新は止まってしまうので、OSバージョンアップなどで将来的にはアプリ自体が起動できなくなることがあるからです。