墓場を探してさまよい歩くゾンビ

激務の平日に続いて訪れる週末の朝。身体中が痛くて重い。

「子供がほしかったら早く動け。それが生物として理にかなっているんだ」

どこからともなく声が聞こえてきます。心はベッドの中にいたいのに、体は外に出ていかなければいけない。寂しい休日を埋めるように婚活に勤しんでいた私も、次第に疲弊していきました。「結婚は人生の墓場だ」という既婚者がいますが、私はまるで自分が入る墓場をさがして婚活市場をさまよい歩くゾンビみたいでした。

結婚相談所の入っているフロアには英会話スクールも入っていました。そこでは同年代の男女が楽しそうに談笑していました。身だしなみも整っていて、会話をすることもできる男性は職場にも世の中にもたくさんいるのに。

なぜ私はお金を払ってそうではない人と会っているのだろう? なぜ一緒にいて楽しくない彼らをニコニコして、持ち上げなきゃいけないのだろう? そして最終的には抱かれなきゃいけないのだろうか? それに結婚相談所に通っていることが職場にバレたらきっと笑われてしまう。人並みに結婚して、人様に恥ずかしくない女になるためには、ここまで惨めな思いをしなきゃダメなの?

愛され記事と2ちゃんねる

世の中は「愛され」「モテ」「女子力」が全盛でした。ネットで彼氏ができないという悩みを検索すると、「愛される女子になるためには」「28歳の崖っぷちOLが結婚するには」「男性が引いている女性の行動」「すごい、さすが、知らなかった」「男は手のひらで転がして育てろ」「バリキャリでも男をキュンとさせる方法」などが目に入ってきました。

またその頃2ちゃんねるを見るようになりました。そこには、今まで見たことのない世界が広がっていました。

「JS最高」「合法ロリ」「非処女死ね」「28歳のBBAをやり捨てにした」「30歳以上は産業廃棄物」

そうか、自分は30歳になったら、産業廃棄物になるんだ。いまチヤホヤしてもらえているのは、私が20代だからで、それを過ぎたら人生は終了するんだ。30歳を超えた他の女性たちは、産業廃棄物だから私より下なんだ。じゃあ30歳になるまでに死にたいと思いました。

2ちゃんねるの言うように10代前半の頃にセックスして子供を作っていればよかったのかな? それはあまりにも過酷すぎないだろうか。でも10代はもう過ぎてしまったことだ。もし後悔したくなかったら、この子宮が機能している間に、私は女として成果を出さねばならない。男に私と結婚して子供を作るよう発破をかけて決心をさせるのだ。

男性には私以外にもたくさん選択肢があるように見えました。

私より若くてかわいくて学歴が低くて年収が低い女の子たちは、毎年次々にやってくるのです。男たちはその女の子たちを選びたい放題で、遊びたい放題。さらにはアイドルやアニメやゲームなど、もっと自分の思い通りになる架空の女の子たちもいるのに、わざわざ歳をとったスペックの高すぎる私を伴侶として選んでもらうのは並大抵のことではない。もっと努力をしなければいけないんだ。

クレーン
写真=iStock.com/vchal
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