娘の不安障害

その後しばらくは平穏な時間が過ぎたが、2018年に新たな懸案事項が浮上する。

会社員として働いていた20代の娘が、通勤時に突然倒れたのだ。その日、駅長室で休ませてもらっていたが、一向に回復しないため、救急車で運ばれる。

娘は胸の苦しさを訴えたが、病院で調べてもどこにも異常はないため、そのまま帰宅。しかしその後も同じような症状に苦しみ、体調が優れない日が続くため、心療内科を受診。不安障害と診断され、1年間の休職を決めた。

深戸さんも妻も、数カ月休職すれば復調すると考えていたが、予想に反して娘の症状は悪化。全く外出できなくなり、1カ月ほどベッドから起き上がれず、食事もとれなくなった。

心配した深戸さんは、インターネットで極力服薬に頼らない治療方針の心療内科を探し、通院を開始。その心療内科医は、24時間いつでも連絡が取れるメールアドレスを教示し、深戸さんと連絡を取りつつ治療を進めてくれた。

ある日の明け方近く、娘が激しいパニック発作を起こしたため、深戸さん夫婦は救急車を呼ぼうと思ったが、その前にその心療内科医にメールをしたところ、すぐに「落ち着いてください。大丈夫ですから」と返信があり、深戸さんも妻も冷静になることができた。

「後から娘に聞いた話では、大学受験の頃に喉がつかえるような症状があり、就職活動の時期にも駅で倒れたことがありました。性格的にかなりおとなしいほうで、引っ込み思案なところがあり、就職してからもいろいろ悩んでいたようです。私たち夫婦は戸惑うばかりで、その心療内科医との奇跡的な出会いがなければ、娘はここまで回復できなかったように思います」

2019年6月、1年以上の休職は解雇となるため、娘は完治しているとは言えないながらも復職。その1年後には、休薬に成功した。

運命の電話

その後も深戸さん夫婦は、両親と距離を取り続けた。実家から電話がかかってくるときは、大抵「親を大事にしなさい」という内容の文句と嫌味の電話だった。

ところが2020年3月、両親のケアマネージャーを名乗る人から、「この度は、ご両親がデイサービスと訪問看護の利用を始めることになりました。料金が発生するので、一応息子さんにも連絡をしました」と電話が入る。

深戸さんは、母親が2015年に人工股関節置換手術を受けており、身体障害者となっていたのは知っていたが、何級かまでは把握しておらず、介護認定を受けていたことも知らなかった。

レントゲン
写真=iStock.com/Spondylolithesis
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さらに同じ日、デイサービスの担当者から、「明日契約なので立ち会ってほしい」と電話が入る。

深戸さんは、突然の電話に戸惑いつつも、相手の強引な呼び出しに考える猶予もなく、翌日、指定されたデイサービス事業所へ向かった。

事業所に着くと、所長にケアマネージャーを紹介され、施設内を見学。契約に呼び出した当のデイサービスの担当者が不在だったため、「担当者が到着するまで、実家で介護保険証を探しておいてください」と言われる。