結婚後の生活
結婚後、妻は深戸さんが、「うちの両親は毒親だから関わらないほうがいい」と言うのを意に介さず、「親なんだし、月に一度は様子を伺いついでに電話くらいしたほうがいいよ」と言い、実行に移した。
ほどなくして妻は、楽観視していた自分を悔やむことになる。電話をかける度に、母親から何かに付けて文句や嫌味を言われるため、みるみる疲弊していった。
母親は、妻に直接文句や嫌味を言うだけでは飽き足らず、ときには妻の母親にわざわざ電話をしたり手紙を書いたりして、妻の悪口を吹き込むことも。深戸さんの自宅の近くに住む妻の母親は、娘に電話や手紙があったことを伝え、心配した。
妻は次第に、当初電話をかけると決めていた月末が近づくにつれて、表情が暗くなり、口数が少なくなっていき、とうとう軽いうつ状態になってしまう。深戸さんは、毎月実家に電話するのをやめさせた。
それから数年後、30代にはいった深戸さん夫婦に長女が誕生する。
初孫の誕生は、毒親の両親にとっても嬉しかったようだ。父親は乳児をどう扱えばいいか戸惑っていた様子だったが、母親は思いのほか可愛がってくれた。
それでも深戸さん夫婦は、なるべく実家に関わらないようにした。お盆とお正月くらいしか帰省しなかったが、その数時間も、深戸さん夫婦にとっては針のむしろ状態だった。
「母は、『やっつけてやる!』が口癖で、常に誰かを攻撃せずにはいられない人でした。『用事があるから』と早々に帰った時などは、私たちに直接文句を言わず、妻の母親に『息子夫婦によく言っておいてください』と電話したりしていました。母に命令されて、我が家へわざわざ伝えに来る義母には本当に申し訳なく思いましたし、当時の妻の怒りは相当なものでした」
そしてお盆やお正月でさえも、深戸さん一人で帰省するようになっていった。
妻のリウマチ
2008年、40代になっていた深戸さんの妻が、突然肩の痛みを訴え始めた。
最初は四十肩かと思い、整骨院に通い始めたが、肩だけでなく、顎、膝、股関節など、関節という関節に激痛を感じるようになり、整形外科を受診するも一向に症状は改善しない。何軒か病院を変わり、膠原病内科にかかったとき、「リウマチではないか?」とようやく診断が下りる。
関節リウマチは、30~50歳代の女性が多く発症し、免疫異常によって主に手足の関節が腫れたり痛んだりする病気だ。進行すると、骨や軟骨が壊れて関節が動かせなくなるだけでなく、目や肺などの全身に炎症が拡がることもある。
リウマチの初期症状には、熱っぽい、からだがだるい、食欲がないなどの症状が続いたり、朝方に関節の周囲がこわばったりすることがあり、その後、小さな関節が腫れ、やがて手首やひじ、肩、足首やひざ、股関節など全身の関節に拡がっていく。妻はこの状態に至っていた。
リウマチを発症する原因はいまだによくわかっていないが、細菌やウイルスの感染、過労やストレス、喫煙、出産やけがなどがきっかけになることがあるという。深戸さんはうつ症状も、このリウマチも、自分の親と関わったことが強いストレスになったことで発病したのではないかと感じている。
妻は、服薬やリハビリを開始するも、最も症状が悪いときは、「血管の中をガラスの破片が流れているような感じがする」と言い、ほとんど寝たきり状態に。深戸さんは、当時高校受験を控えていた娘には負担をかけまいと、ほとんどの家事を引き受けたほか、激痛のため入浴や着替えも一人ではできなくなった妻のため、平日の通勤前と帰宅後、そして休日は妻を介助した。
妻の症状は約3年続いたが、腱の癒着はリハビリで改善し、ゆっくりと回復。現在もこわばりや痛みは残るが、普通に生活できるまでになった。