「勝った」というより「終わった」という表情だった
全米オープン最終日の夕暮れどき。通算6アンダー、単独首位で先にフィニッシュしたスペイン出身のジョン・ラームは、後続組のホールアウトを待ちながら、プレーオフに備え、トーリーパインズの練習場でクラブを振っていた。
その後方で、ラームの愛妻ケリーと、とっくの昔にプレーを終えたフィル・ミケルソンが、リゾートチェアに座り、和やかな笑顔で談笑していた。
ラームの表情も驚くほど穏やかだった。72ホール目でバーディーパットをねじ込み、雄たけびを上げたときの激しい形相はすっかり消え去り、柔和な笑みを浮かべながら静かにクラブを振っていた。
まだ勝敗は決まっておらず、プレーオフにもつれ込めば、熾烈な戦いになるかもしれない。敗北だってありえる。そんな落ち着かない状況のはずなのにピリピリした緊張感は伝わって来ず、むしろ、映画やドラマのエンディングで登場人物たちが「いろんなことがあったけど、本当に良かったね」と笑顔でうなずき合う場面のように和やかな空気が感じられた。
それから十数分後、南アフリカ出身のルイ・ウーストハウゼンが18番でイーグルを獲りそこなった瞬間、ラームの逆転逃げ切り優勝が決まった。
クラブを振っていた手を止めて、ラームはキャディのアダム・ヘイズと抱き合い、愛妻ケリーやミケルソンと次々にハグを交わした。
ラームの表情は「勝った」というより「終わった」というものだった。それはきっと、自分1人で勝ったのではなく、みんなのおかげで大仕事を成し遂げたのだと、彼が感じていたからではないだろうか。