「何かいいことが起こる予感がしていた」

なぜ、ラームは事態を冷静に受け入れることができたのか。それは彼の胸の中には予感めいたものが芽生えていたからだそうだ。

「最初はもちろん驚いたけど、何かいいことが起こる予感がした。これは、きっとハッピーエンドになる物語なのだと思った。そして、わが子の良き手本になりたいと思った」

隔離が無事に終わり、ギリギリセーフで全米オープンに滑り込んだラームは、好プレーを続けて優勝争いに絡み、首位に3打差の好位置で最終日を迎えることになった。

「土曜の夜、彼は無口だったので、すごくナーバスだったんだと思う。日曜の朝も無口だったけど、前夜とは違って、自信にあふれているような静けさだった」

愛妻ケリーの直感は正しかった。そして最終ラウンドをティーオフしたラーム自身も、自信を確信に変えてプレーしていた。

「出だしで連続バーディーが来て、すべてが正しい方向へ向かっている、やっぱり何かいいことが起こると思った。今日は僕の日だと直感した」

全米OPはメジャー優勝者が目まぐるしく入れ替わる大混戦に

サンデーアフタヌーンのリーダーボードは、ローリー・マキロイやブライソン・デシャンボー、ルイ・ウーストハウゼン、コリン・モリカワ、ブルックス・ケプカなど、メジャー・チャンピオンたちが目まぐるしく入れ替わる大混戦になった。

「誰が勝っても『スターたちがひしめき合った全米オープンを制したチャンピオン』と呼ばれることになる。その中に僕の名前が含まれていることは栄誉だと思った。最後まで最高のゴルフをしようと心に誓った」

感謝の心、謙虚な姿勢が芽生えたとき、メジャー優勝の悲願が達成されることは、ゴルフ・ヒストリーが実証している。前半で2つスコアを伸ばしたラームは、後半はボギーを1つも叩かず、上がり2ホールは連続バーディーで締めくくり、見事なゴルフで72ホールを戦い終えた。

プレーオフに備え、練習場で球を打っていたラームは「いいことが起こる」ことを信じ続けていた。たとえ、プレーオフにもつれ込むとしても、誰と戦うとしても、「今日は僕の日。いいことが起こる」と信じて疑わなかった。だから、後続組のホールアウトを待つ間も柔和な表情でいられたのだろう。

そんなラームに勝利の女神はほほ笑み、プレーオフを戦わずして、全米オープン・タイトルはラームのものとなった。