「会見は、大会から選手を追い出すためのものではない」

女子テニスの大坂なおみ選手が全仏オープン1回戦勝利後に記者会見を拒否したことが、波紋を広げている。

女子シングルス1回戦勝利後、喜ぶ大坂なおみ=2021年5月30日、フランス・パリ
写真=AFP/時事通信フォト
女子シングルス1回戦勝利後、喜ぶ大坂なおみ=2021年5月30日、フランス・パリ

当初、大会側は1万5000ドル(約165万円)の罰金を言い渡し、さらに4大大会の「出場停止」「永久追放」といった厳罰の可能性も示唆していた。

しかし、大坂が大会からの棄権を表明し、「(会見は)大きなストレス」「ルールの一部がかなり時代遅れだと感じた」「2018年全米オープン以降、長い間、気持ちがふさいだ状態(うつ的状態)になり、苦しんできた」と明かすと、大坂への支持が広がった。

たとえばワシントン・ポストは「会見は大会の盛り上げにつながるものであるべき。大会から選手を追い出すためのものではない」と大坂を支持する記事を出した。

私はゴルフジャーナリストなので、この件をゴルフに引きつけて考えてみたい。1対1で対戦するテニスと、1試合に100人前後が集まるゴルフは、条件も事情も性質も異なるため、そのまま比較はできない。しかし、ゴルフ界における会見を振り返ることで、「理想の会見」を実現する手がかりを示せるかもしれない。そんな想いを込めて、今、キーボードを叩いている。

2011年のマスターズで、松山英樹に向けられた質問

米男子ゴルフのPGAツアーとメジャー4大会における会見は、大きく分けて「開幕前」「毎日のラウンド後」「勝敗決定後」の3種類がある。

「開幕前」の会見に必ず呼ばれるのは前年覇者と前週大会の覇者だが、それ以外に「何かしらの注目」を集めている選手も呼ばれることが多い。

「何かしらの注目選手」の開幕前の会見は、メディアからのリクエストを受けてツアーや大会が選手に個別交渉し、会見出席を呼びかけるという手順が取られるのだが、何を持って「注目」とするのかという基準や定義がないせいか、質問にも返答にも曖昧さが漂って、異様な空気となることがある。

松山英樹はアマチュアとして初出場した2011年マスターズの開幕前、「注目選手」の一人として会見に呼ばれた。

アジア・アマチュア選手権(現アジア・パシフィック・アマチュア選手権)を制してマスターズ出場資格を得たこと、大会1カ月前に起こった東日本大震災の被災地の大学からやってきた日本人大学生であることなど、世界のメディアから注目されていた。

だが、アジア・アマは創設されて2年目と若く、日本の地理や日本の事情がほとんどわからない世界のメディアは、雲を掴むような手探り状態で、あの手この手の質問を松山に矢継ぎ早に浴びせていった。