松山は記者たちに苦笑され、会見場には異様な空気が流れた

松山もまだ会見には不慣れで、母国が見舞われた大災害に対して何をどう語ったらいいのかがわからない様子だった。母校の東北福祉大学は仙台市にある。被災地や被災者に対する複雑な想いもあったに違いない。日本の記者たちは、松山の口が重くなるのは当然だと感じて見守っていた。しかし、事情を解さない欧米の記者たちは、「マツヤマ」を記事化するためのキーワードをなんとかして導き出そうと必死な様子だった。

ある米国人記者が「大学では何を専攻していますか?」と尋ねた。当時の松山には、まだ専属の通訳がおらず、傍らに座っていたのは大会側から急きょ通訳を依頼された現地在住者だった。その「通訳」は、米国人記者の質問をこんな日本語に変えて松山に伝えた。

「大学では何を勉強していますか?」

松山は「えっ? 何って……」と一瞬考えた後、「いろいろです」と答えた。通訳は「いろいろ」を意味する「various」という英語の一言だけを口にした。

誰も間違ってはいないやり取りだった。しかし、「専攻」を尋ねた米国人記者にとっては、「えっ? 『いろいろ専攻』って、どういう意味だ?」と首を傾げる結果になり、他の欧米人記者たちも思わず苦笑した。しかし、松山には苦笑されている意味がわからず、会見場には異様な空気が流れた。

「ゴルフでは全然緊張しないけど、会見は緊張する」

もちろんこの例は、外国人選手ゆえに起こった言語の問題に端を発する勘違いというレアケース。だが、取材する側も取材される側も、何をどう尋ねるべきか、何をどう答えるべきか、「よくわからない」という不確実な要素が強い場合は質疑応答が曖昧になる。

その曖昧さを感じれば感じるほど、メディア側はなんとか記事になる事実を聞き出そうと執拗に質問を重ねる。それが選手にとってストレスになるであろうことは想像に難くない。

スポーツマンを与えてインタビュー
写真=iStock.com/SeventyFour
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初マスターズの初会見に臨む松山の表情は終始、険しかった。しかし、会見が終わると表情は一変し、明るい松山にすぐさま戻った。そして彼は、こう言った。

「ゴルフでは全然緊張しないけど、会見は緊張する。会見は何より緊張する」

あのとき松山が口にしたその一言は、プロ転向後も、ずっと彼の中にあるように感じられる。