米国でインフレ懸念が高まり、13日には株価が大きく崩れた。モルガン銀行(現・JPモルガン・チェース銀行)元日本代表の藤巻健史さんは「バイデン政権の現金バラマキで物価が上がり、景気が過熱している。この対応が後手になれば30年前の日本のバブル崩壊よりも深刻な状況になる」という――。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(米ワシントン)=2019年7月10日
写真=AFP/時事通信フォト
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長(米ワシントン)=2019年7月10日

インフレ懸念で株式市場は大揺れ

5月13日の日経新聞夕刊1面トップの大きな記事は「米市場、インフレ加速警戒」というタイトルだった。「金融市場が米国のインフレ懸念加速に警戒を強めている」というのだ。このインフレ懸念のせいで、米長期金利が上昇、数日間の動きではあったもののIT株を中心に株安が起きた。

その一方、連邦準備理事会(FRB)のパウエル議長は、「物価上昇は一時的的だ」とのコメントを何度も繰り返している。長期金利の上昇を抑えるために市場の懸念を打ち消したいのだろう。

市場のメイントピックとなりつつあるインフレ懸念だが、インフレ進行の理由のひとつは、半導体や木材等の供給が不足している反面、コロナ禍で後ずれした需要が爆発しつつあるという需給の悪化だ。それが主因のインフレならFEDの「物価上昇は一時的」とのコメントも、それなりに納得がいく。

巨大な財政出動の大きな反動

しかし、米国でインフレ懸念が広がっている最大の理由はコロナ対策にための巨大財政出動を、中央銀行が国債を買い取ることによってファイナンスしたことだ。すなわちお金をジャブジャブにしたことだ。

5月15日の日経新聞「FRB、来年にかけ利上げ」というタイトルの導入部にも「米国の物価上昇が世界の市場を揺さぶっている。大規模な財政出動や金融緩和の継続が、経済に何をもたらすのか不透明感が強まってきたためだ」と記されている。

ジャブジャブになったお金が、株、不動産、絵画、実物資産に投機資金として流れ込んだ。お金がジャブジャブに供給されれば、他の商品の需給と同様、その値段(=価値)は下がる。法定通貨の価値が下落する(=インフレ)のだから、その前に株、不動産、実物資産等のインフレに強い資産へのシフトは当然の動きといえる。

流れ込んだお金で資産価格が上昇すると資産効果で景気も上昇。それに伴い、木材、銅、鉄鉱石などの原材料の需要が増え、値段は上がる。投機としての需要に加え、実需も増えるのだから原材料価格は、さらに上がるわけだ。