なぜ台湾は「デジタル先進国」になれたのか。李登輝元総統の秘書だった早川友久さんは「政府と市民ハッカーの協力を抜きに台湾のデジタル化は語れない。異国の文化やシステムを取り入れ、自分たちが使いやすいように改良するのは、日本が得意とする“お家芸”だ。台湾の事例は必ず日本の役に立つ」という――。
※本稿は、早川友久『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。
デジタルの世界で花開いた台湾の“柔軟性”
私がオードリーとの20時間以上にわたる対話から得た、日本の今後について考えなくてはならないキーポイントを紹介していこう。
『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』(ビジネス社)で紹介しているように、トランスジェンダーで中卒のITプログラマーであるオードリーを大臣に任命し、しかも国民の命に直結するコロナ危機対策の中心に据えるという“柔軟性”が、台湾の大きな特徴だといえるだろう。
ただ、台湾が柔軟性をいかんなく発揮し、少数派や弱者の意見を聞いて政治や行政に反映する、という歯車がポジティブにまわり始めたのは、実はそう古いことではない。具体的なきっかけは、やはり2014年に起こった「太陽花(ヒマワリ)学生運動」だったといえよう。
そもそもオードリーが政治の世界へ入ったきっかけをつくったのは、馬英九政権で政務委員を務めていた蔡玉玲との出会いだった。
蔡玉玲は弁護士だが、IBMの中華圏における法務責任者を務めていたこともあり、デジタルに造詣が深かった。彼女が2013年11月に政務委員として入閣したのも、当時の法律と社会の変化に齟齬をきたすことが多くなり始めたからだ。ネットの世界が発展するにつれ、デジタル社会や仮想世界(Virtual World)といった新しい領域が加速度的に広がっていった。その結果、既存の法律では処理できない事件も増えていったのである。