なぜ日本のデジタル化は進まないのか。台湾の李登輝元総統秘書の早川友久さんは「台湾の成功が参考になる。台湾がデジタル化に成功したのは、行政運営の透明性が高いからだ。一方、日本政府は国民から不信感を抱かれてしまっている」という――。

※本稿は、早川友久『オードリー・タン 日本人のためのデジタル未来学』(ビジネス社)の一部を再編集したものです。

オードリー・タン(成大開源月=2015年10月13日)
写真=daisuke1230/CC BY 2.0
オードリー・タン(成大開源月=2015年10月13日)

「天才IT大臣」オードリー・タンの一風変わった講演

台湾における日本人社会でもオードリー・タン(台湾のIT担当閣僚)の人気が高まるにつれて、講演に呼ばれることが増えてきた。オードリーの講演は一風変わっている。登壇して原稿を取り出して読み始める、というスタイルではない。

講演の参加者は事前に受け取ったメール、あるいは現場のモニターに表示されたQRコードをスマートフォンで読み取って「Slido」(スライド)というネット上のクラウドサービスにアクセスする。Slidoとは会議やイベントなどで、双方向のコミュニケーションができる、臨時のネット掲示板のようなものだ。

参加者はオードリーに聞いてみたいことを事前に、あるいは現場で入力する。講演開始とともに、オードリーは入力された質問に対し、講演時間が終わるまでマシンガンのようなスピードで答え始める。いわば、一般的な講演の際、講演終了後に行われる質疑応答をいきなり冒頭から始めるようなものだ。

このやり方はある意味、理にかなっている。いくら講演テーマが関心のあるものだとしても、自分が本当に聞いてみたいと思うことを講演者が話すかどうかはわからないし、通常の講演スタイルであれば、聴衆の具体的な要望を講演者が把握する手段もない。

しかし、これならば聴衆は自分の聞きたいテーマを、ピンポイントでオードリーに伝えられるし、オードリーも同様に、オーディエンスが聞きたがっていることについて話すことができる。

こうした先進的なやり方について、オードリーが政治の世界に入るきっかけをつくった弁護士の蔡玉玲は、こう語っていたのが印象的だった。

「オードリーはデジタル担当政務委員として、人々が慣れていないもの、未知なるものを自分が積極的に活用することによって、デジタルを啓蒙しようとしています」