目に見えない男性優位な傾向が女性を働きにくくする
実際、男性のニーズこそ普遍的であるという思い込みにもとづいた労働文化のせいで、世界中の女性たちはいまだに不利な立場に置かれている。最近の世論調査において、アメリカの主婦や主夫の大多数は(97%は女性)、自宅で働けるなら復職したい(76%)、フレックス勤務で働けるなら復職したい(74%)と回答している。
アメリカの企業の大半はフレックス勤務を提供していると主張しているが、実情はやや異なるらしい。実際、2015年から2016年にかけて、アメリカではフレックス勤務者数は減少しており、大手企業ではリモートワーク制度の撤回が始まっている。イギリスでは半数の労働者がフレックス勤務を希望しているが、求人広告でフレックス勤務を明言しているのは9.8%にすぎない。そして、フレックス勤務を希望する女性たちは、職場で不利な目に遭っている。
企業はいまだにオフィスでの長時間労働を有能さと混同しているきらいがあり、どこの企業でも評価するのは長時間働く従業員であることが圧倒的に多い。おかげで得をするのは男性たちだ。統計学者のネイト・シルバーは、労働時間が週50時間以上の従業員の時給は(70%は男性)、もっと一般的な週35〜49時間労働の従業員の時給にくらべて、1984年以来2倍の速さで上昇していることを突き止めた。
そして、この目に見えない男性優位の傾向は、残業時間は課税対象とならない国々においては、さらに助長されている。
日本がジェンダーギャップ指数で世界的に後れをとるワケ
長時間労働の傾向は日本ではきわめて著しく、真夜中過ぎまで働く従業員もめずらしくない。勤務時間の長さや勤続年数にもとづいて、昇進が決定されるせいもあるだろう。
そのためなら、「ノミニケーション」への参加もいとわない――日本語の「飲む」と英語のコミュニケーションを組み合わせた言葉遊びだ。もちろん、どれも建前上は女性にもできることだが、実際にはなかなか難しい。日本の女性は1日5時間の無償労働をしているが、男性は1時間だ。遅くまで残業して上司にアピールし、近くのストリップバーでおおいに盛り上がって酒を飲む。そんなことができるのは男女のどちらか、一目瞭然だろう。
日本で女性の無償労働がさらに多いのは、日本の多くの大手企業が採用している総合職(キャリア)と一般職(ノンキャリア)という2種類のキャリア制度のせいもある。一般職はおもに事務職で、昇進の機会はほとんどなく、「ママ」路線とも呼ばれている「ママたち」は、総合職の人材に求められる労働文化にふさわしくないのだ。子どもをもつことによって女性の昇進の機会には影響が生じる(勤続年数の長さによって、会社への忠誠心をアピールできるかにかかっている)ため、日本の女性の70%は第1子を出産したのち、勤続10年程度で退職し(アメリカの場合は30%)、そのまま就労しない人たちも多い。また日本はOECD諸国のなかで、雇用における男女格差では第6位、賃金における男女格差では第3位となっているのも、驚くべきことではない。