自動車事故は男性のほうが事故に遭う確率が高い一方で、女性のほうが重症化や死亡するケースが多いそうです。ジャーナリストのキャロライン・クリアド=ペレスさんは「自動車の設計には、長年にわたって女性を無視してきた恥ずべき歴史がある」と指摘します――。

※本稿は、キャロライン・クリアド=ペレス(著)神崎朗子(翻訳)『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

安全運転
写真=iStock.com/Tony Studio
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自動車設計における女性差別

ミネソタ大学の運動生理学の教授、トム・ストッフレジェンは、「女性のほうが男性よりも乗り物酔いになりやすいのは、この分野の研究者なら誰でも知っています。」と語る。「女性の姿勢の傾きは月経周期によって変化する」というエビデンスも発見した。

私はストッフレジェンの研究結果にはわくわくすると同時に、怒りを覚えた。

なぜならこれは、私が調べているもうひとつのデータにおけるジェンダー・ギャップの問題すなわち、車の設計にも関わってくるからだ。

座っているときでも、体は揺れている。

「スツールに座っている場合は、ヒップのあたりが揺れています」ストッフレジェンは説明する。

「椅子に背もたれがある場合は、首の上にある頭が揺れています。揺れを取り除くにはヘッドレストを使うことです」

その瞬間、私の頭に疑問が浮かんだ。もしヘッドレストの高さや角度や形状が体に合っていなかったら、いったいどうなるんだろう?

女性はただでさえ乗り物酔いをしやすいのに、車が男性の体格に合わせて設計されているせいで、車酔いがよけいにひどくなるのでは?

私はストッフレジェンに疑問をぶつけた。

「そうですね、おおいにありうるでしょう」。彼は答えた。

「ヘッドレストの高さなどが合っていなければ、安定性の質がね……そういう例は初耳ですが、いかにもありうる話だと思います」

だがここでまた、データにおけるジェンダー・ギャップにぶつかる。車のヘッドレストが女性の体格を考慮して設計されているかどうかを確認できる研究は、どうやら皆無のようなのだ。だが、それも予想外ではなかった。自動車の設計には、長年にわたって女性を無視してきた恥ずべき歴史があるからだ。