家事や育児、介護に伴う労働に女性がかける時間は、1日5時間にも及ぶ。一方で働く男性はたったの1時間だ。ジャーナリストのキャロライン・クリアド=ペレスさんは「もういいかげん、ケア労働をする人たちを不利な立場に追い込むのはやめるべきだ」と言う。仕事において「男性のニーズこそが普遍的」とされる労働文化において、女性たちが感じる不公平さとは――。

※本稿は、キャロライン・クリアド=ペレス(著)神崎朗子(翻訳)『存在しない女たち:男性優位の世界にひそむ見せかけのファクトを暴く』(河出書房新社)の一部を再編集したものです。

キッチンに立つ主婦の背中
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男性に有利な労働文化

目に見えない女性の無償労働は、新生児の誕生によって始まるわけでも、終わるわけでもない。典型的な職場は、浮世離れした身軽な労働者に合わせてつくられている。

彼は(言わずもがな、男性だ)子どもや高齢者の世話や、炊事、洗濯、通院、買い物で煩わされることもない。子どものケガやいじめに対応し、お風呂に入れて、寝かしつけあくる日もまた同じことを繰り返す必要もない。

彼の生活は単純明快で、仕事と余暇のふたつしかないのだ。全従業員が毎日同じように出勤するのが当たり前の職場では、出勤・退勤の時間も融通が利かない。学校や保育所や病院やスーパーは、勤務先の近くにまとまっているわけでもなく、みんなばらばらだ。そんな職場は、女性にとって不便でしかない。女性が働きやすいように設計されていないのだ。

女性を働きやすくする企業の取り組み

だがなかには、典型的な職場や就業日に潜んでいる男性中心主義の問題に対処しようとしている企業もある。キャンベルスープ社は、従業員の子どもたちのための学童保育や夏期プログラムを職場で用意している。

グーグル社は、新生児の誕生後3カ月間、テイクアウト用の食事手当や補助金付き保育サービスを提供するほか、オフィスの敷地内にクリーニング店などの商業施設を設けており、従業員は平日に個人的な用事をすませることができる。

さらにソニー・エリクソン社[現ソニーモバイルコミュニケーションズ]やエバーノート社では、従業員にハウスクリーニング費用まで支給している。

アメリカの職場では、専用の搾乳スペースを用意するところが増えている。アメリカン・エキスプレス社では、母親が授乳期に通勤しなければならない場合、母乳を家に配達するための費用まで会社が負担している。

しかし、このように女性への配慮を忘れない企業はめったにない。

2017年、アップル社がアメリカ本社を「世界最高のオフィスビル」だと宣言したとき、その最先端オフィスには医療施設や歯科クリニックや、ラグジュアリーなスパまで備えていたが、保育施設はひとつもなかった。つまりは、男性にとって世界最高のオフィスというわけだろうか?