いまだ女性管理職が大きく増えることはなく、「男性中心」の社会構造となっている日本。政治学者の中村敏子さんは、「女性が家族における協同的な『性別分業』に安住している間に、大きな社会構造としての『家父長制』が成立してしまった」と指摘します――。

※本稿は、中村敏子『女性差別はどう作られてきたか』(集英社)の一部を再編集したものです。

スマートフォンで家計簿をつける日本人女性
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女性の専業主婦化はなぜ進んだのか

第2次世界大戦後、日本国憲法に「両性の平等」が定められました。しかしこれにより変化したのは、国家の政治的権利における平等の達成だけであり、企業と家族を合わせて〈大きな「家」〉を構成する男性と女性の「性別分業」の構造は維持されました。それどころか経済の進展に伴って、1950年代から1970年代までサラリーマンが増加していくことで、女性の専業主婦化が進みました。女性は結婚して主婦という役割に「永久就職」することが主流となったのです。

それに伴って、こうした「性別分業」にもとづく社会が円滑に機能するようなシステムが作られていきました。仕事を担当する男性には、家族分も含んだ「家族賃金(世帯賃金)」が支払われましたし、これと対になる主婦たる女性に対しては、配偶者手当や配偶者控除などのさまざまな優遇策がとられました。このような中で、女性の仕事はあくまでも補助的なものと考えられるようになります。それゆえ女性はパートや非正規の労働者として働き、賃金は低く抑えられて、男女の賃金格差が当たり前となったのです。

実は日本の主婦は地位が高い

こうした体制は、高度成長を支えるために非常に効率的で、とてもうまく機能したように思われます。それが可能だったのは、日本の主婦が、欧米の主婦に比べて居心地のいい立場にいたからでしょう。最も重要な点は、主婦が家族における「財布の紐」を握っていたことです。日本の家族では、夫の稼ぎは彼個人の所有とはならず、家計に計上されました。それを使って主婦は家計のやりくりをしたのです。つまり「夫は稼ぐ人、妻は使う人」ということです。日本の「家」の役割分担からいえば、これは普通のことでしょう。政策の転換により銀行口座の名義人のチェックが厳しくなる前は、夫名義の通帳から妻が預金を引き出すことが普通に行なわれていました。今でもキャッシュカードで同じことができますが。

西洋では所有権概念が厳しいため、夫の稼ぎは夫個人の所有となります。私は1978年からイギリスに長期滞在したのですが、その頃イギリス人はスーパーでも小切手で支払うのが普通でした。小切手は本人のサインが必要ですから、夫にサインをしてもらわないと支払いができなかったのです。それを見て夫の口座から平気で現金を引き出していた私は、何と面倒なのだろうと思ったことを覚えています。