女性ダミー導入の意味がない“死亡率”
男女が一緒に車に乗るときは、男性が運転することが多い。したがって、運転席以外のデータを収集しないのは、女性のデータを収集しないのと同じことだ。
すべてが腹立たしいほど皮肉なのは、男性は運転席、女性は助手席というのが当たり前になりすぎて、衝突安全テストでは運転席には男性ダミー、助手席には女性ダミーを設置するのがいまだに一般的であることだ。したがって、運転者の死亡率しか含まれていない統計データには、衝突安全テストに女性ダミーを導入した効果はまったく表れていない。結論として、あの見出しはもっと正確にこう書くべきだろう。
「自動車設計の改善によって、男性が座ることが多い運転席における死亡率は低下したが、女性が座ることが多い助手席における死亡率については不明である。ただし、自動車事故における死亡率は、女性のほうが17%高いことはすでに明らかになっている」
歯切れがやや悪くなるのは否めないが。
運転者以外のデータは回収されていない実態
傷害防止および安全促進の研究を行うセーフティ・リット(SafetyLit)財団のデータベースの責任者、デイヴィッド・ローレンス博士に話を聞いたところ、彼は私に言った。
「アメリカのほとんどの州では、警察の事故報告書は研究材料としては使いものになりません」
運転者以外に関するデータは、ほとんど収集されていないのだ。警察の事故報告書は、書面で「データ入力のため契約会社に渡される」ことが多い。
「データの品質チェックはめったに行われませんが、実際に行われたケースでは不備が指摘されています。たとえばルイジアナ州では、1980年代の自動車事故の場合、車に乗っていた人たちの大半は1950年1月1日生まれの男性。事故車のほぼすべては1960年型でした」
もちろん、そんなはずはない。デフォルト設定のままだったのだ。
ローレンスの話では、この問題は「ほかにも多くの州で」明らかになっている。にもかかわらずデータが改善されていないのは、「データ入力の慣行を変えていないから。アメリカ政府は各州に対し、警察の事故報告書を米国運輸省道路交通安全局(NHTSA)に提供するよう要請しているが、データの品質についての基準も、粗悪なデータを送った場合の罰則も示していない」のだ。