40年以上も精神科病棟に押し込まれた男性の魂の叫び

仕事をしたり、旅に出たり、恋愛したり……。結婚や子育てなどを同世代は当たり前のように経験していた。その間、伊藤時男さん(69歳)は40年以上も精神科病棟という「鳥かご」で過ごした。

伊藤時男さん。40年以上もの間を精神科病棟の中で過ごした。今は自由の鳥となった。
伊藤時男さん。40年以上もの間を精神科病棟の中で過ごした。今は自由の鳥となった。

母を早くに亡くした時男さんは父の再婚相手と折り合いが悪く、高校を中退し親戚のもとで働き始めた。そんな矢先に妄想に襲われ、病院へ。治療のためと言われ注射を打たれ、目を覚ますと東京の精神科病棟にいた。統合失調症と診断された。自由を制限されることが苦しく、何度も病棟から脱走をしては連れ戻されるということを繰り返した。ある日、病院を訪れた父の背中が小さく感じた。

父を苦しませているのではと胸が痛んだ。早く良くなって親孝行をしたい。そう決意し、父が住む福島県の病院に転院後は、模範的な生活を送った。良くなれば退院できると信じていた。が、1年、2年と時は過ぎた。退院したいと申し出ても聞き入れられることはなく、長期間を病院内で過ごした自分が退院して外の社会で生活できるのかと、自信も失った。

自分の居場所は病院なのかもしれないと思った。これは長期入院を強いられた患者が陥る「施設症」と呼ばれるものだった。