生まれながらの障害を負った22歳の息子の歯磨きや入浴、食事などを介助している46歳の女性。この20年以上、夫や親など近親者がバタバタと倒れ、そのすべての介護をワンオペで担った。今、睡眠障害や軽い鬱を患っているものの、めげずに日々を生き抜く女性の精神の拠り所となっているのが、栃木県出身のお笑いコンビの漫才と淡水魚・海水魚の飼育だ——。
薬物中毒
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子育てと介護が同時期に発生する状態を「ダブルケア」という。通常、子育ては両親が行い、介護は親族が行うのが一般的だが、昨今、両方の負担が1人に集中することが少なくない。肉体的にも精神的にも過酷なダブルケアは誰にでも起こり得る。取材事例を通じて、それに備える方法や、乗り越えるヒントを探っていきたい。
前編の概要
現在46歳の女性は22歳時に結婚後すぐに妊娠・出産。生まれた息子は最重度知的障害・自閉症だった。言葉が出ず、人とコミュニケーションが取れず、暴れることもあった息子のケアに日々が忙殺される中、夫も親たちまで病に倒れていく。だが、不幸はその後も続いた。

自閉症の息子と鬱病の夫、体が不自由な実母・義母との5人同居生活

2020年1月。9年前に夫を亡くして以降、一人暮らしを満喫していた89歳の義母が庭先で転び、肩を骨折。肩にボルトを入れる手術を受けるため、入院することになる。

生活が不自由になった義母は、手術前と手術後の合計半年間、関東地方在住の清水陽子さん(仮名・46歳・既婚)の家で同居することになった。4LDKの自宅内には、最重度知的障害・自閉症の息子(22歳)と、その介護を一手に引き受ける清水さん、上司によるパワハラで鬱病になり休職中の夫(52歳)の3人家族、さらに清水さんの母親(69歳・脳梗塞の後遺症で言語障害)、そして義母という5人の同居生活が始まったのだ。

清水さんは炊事・洗濯だけでなく、「息子には恥ずかしくて頼めない」という義母の背中を毎晩流し、頭を洗ってあげるなど、献身的に介助した。

幸い嫁姑仲は良く、義母は、自分が入院しても見舞いにも来ず、お盆とお正月くらいしか顔を見せない娘(清水さんの義理の妹)のことを「あの娘はダメね」と、不満をこぼした。母親と義母も、ちょうど20歳の年齢差があるためか、お互い好意的だった。

コロナの第1波も去った7月になると、義母の肩は完治し、自分の家に帰宅。再び母親と夫と息子、4人での暮らしに戻り、一息ついたのもつかの間、義理の母は鬱病を患ってしまう。月に2回、心療内科への通院が必要になり、退職した夫が様子を見がてら連れて行くようになった。