世界同時不況の真っ只中、日本の製薬市場への影響は比較的軽微な状況である。民間保険が主力の欧米と違い、国民皆保険で自費負担が少なくて済む日本では、不況で薬代を節約するような動きが出にくいからだ。
とはいえ、そのことが国内勢の将来性を担保するわけではない。この先、彼らの前には2つの大きな壁が立ちはだかることになる。ひとつには、これまで製薬大手の売り上げを支えてきた大型薬の特許が、2010~13年頃にかけて次々と切れていくことがある。
これまで米国で大成功した薬は、人口比では日本の2倍にもかかわらず、10倍売れるといわれていた。ジェネリック医薬品がなかなか普及しない日本とは違い、海外では特許切れの薬に対しては瞬く間に後発薬が出回る。特許切れ間近の大型薬に依存している体質では、景気低迷で医療費を圧縮する動きに加え、「ドル箱」を失うことで厳しい売り上げの低下に直面するのだ。
もうひとつの頭痛の種は、有望な大型新薬が生まれにくくなっていることである。時代を追うごとに、新薬のもととなる化学品の発見が困難になっている。また、薬害問題に端を発し、新薬承認のハードルが上がっていることも追い打ちとなり、開発負担は増加の一途を辿っている。
この問題を乗り越えるには巨額の投資を続けて新薬開発を続けるか、有望な新薬候補化学品(開発パイプラインとも呼ばれる)を持つ企業を買収するかのどちらかしかない。今年1月の、米ファイザーによる米ワイス買収のニュースは、久々に後者のアプローチを採った対等合併として注目された。しかし、この買収も向こう3~4年の延命措置にしかならないと囁かれている。
日本勢も武田薬品の米ミレニアム買収、エーザイによる米MGIファーマの買収など同様の戦略に乗り出しているが、その成果は未知数だ。
そんななか新薬開発や開発パイプライン獲得といった、「バクチ」とは一線を画す、ユニークな手を打ったのが第一三共だ。昨年11月に印ジェネリック大手・ランバクシーを買収。米食品医薬品局に品質問題で指摘を受けた件で少々ケチがついたものの、これまでの大型新薬一辺倒路線との決別を思わせる注目すべき一手である。