前回製薬大手の新薬開発が岐路に立たされていることをお伝えした。化学的なアプローチによる開発が困難になるにつれ、開発コストは膨大になりつつある。特許の期限切れに伴い、先発薬と同等の効果を持つといわれている後発品の躍進は避けられない状況だ。だが、製薬大手も指をくわえてみているわけではない。

近年、化学的アプローチとは違うバイオ創薬と呼ばれる開発が注目を集めている。一昨年から昨年にかけて、武田薬品工業は米アムジェンの日本法人を、アステラス製薬が米アジェンシスを、エーザイが米モルフォテックをそれぞれ買収したのもこれにあたる。

抗体医薬とも呼ばれるこの分野は、我々人間の体にもともと備わっている免疫の機能を活用する薬剤。ロシュ・中外グループの抗ガン剤・抗リウマチ薬、JNJ・田辺三菱製薬の抗リウマチ薬などが大型化し、市場規模は世界で2兆5000億円に達している。

よく知られているように、抗原と呼ばれる異物が体内に侵入してきたことを検知すると、それぞれ対応する抗体(免疫細胞)が攻撃を始める。抗体医薬はこの仕組みを生かして、特定の細胞や組織に目印をつけ、免疫細胞に攻撃させるよう仕向けるものだ。抗体医薬は目標とするガンなどの組織のみに結合するため、正常な細胞への影響が少なく、副作用が抑制されることも期待される。今までの薬剤では治療できない分野に有効性を示すことがあり、今後大きな成果が期待できる分野だ。

抗体医薬の欠点は価格が非常に高価であること。治療の際に年間数百万円かかることもザラ、という。化学的に大量生産できる既存の薬品と違い、免疫細胞の培養が必須で仕方のないことなのだが、このコストを一気に下げるかもしれない技術で注目を集めているのが、一昨年、酒類大手キリンホールディングスの傘下に入った協和発酵キリンだ。ポテリジェントと呼ばれる技術により、少ない薬剤濃度で大きな効果を得ることが可能となり、コストの低減に直結するからである。

抗体医薬といった、新しいアプローチから今後も新薬が創製されるかどうかはまだ予断を許さない。しかし、製薬会社の収益を大きく左右するかもしれないこれらの技術は、要注目だ。