※本稿は、ヤマザキマリ『たちどまって考える』(中公新書ラクレ)の一部を再編集したものです。
パンデミックが浮き彫りにした各国のリーダーの姿
今回のパンデミックは、普段では気づかないような事柄を炙りだしているように思います。特に比較文化学的な視点で見てみると、とても面白い。
今ではインターネット上のニュースやSNSを介して、海外の報道や情報も時差なく入手することができますが、各国の対応越しにそれぞれの国の性質が見えてもきました。それはまるで一枚一枚、表面に纏った衣を剥がされているかのようです。
多くの人がコトの次第、状況の顛末を一緒になってリアルタイムで見ることができるのは、過去のパンデミック、たとえば20世紀初頭のスペイン風邪のときにはなかったことだと思います。その意味でも、目の前で今起きていることがパンデミック後にどうつながるのか、とても興味深く感じています。
各国のリーダーたちの姿も、いつになく浮き彫りになりました。特に演説の雄弁さには歴然とした差が見られます。
演説で株を上げるドイツ・メルケル首相
欧州のリーダーに必須だとされるのは、自分の言葉で民衆に響く演説ができるかどうかですが、その点において素晴らしかったのが3月18日、ドイツのメルケル首相が国民に対し、新型コロナウイルス対策への理解と協力を呼びかけたテレビ演説です。
テレビの前にいるであろう、一人ひとりの目を見据えているかのように、彼女が落ち着いた面持ちで語ったその言葉は、感染が広がるなか、未知のウイルスに対して不安を抱える人たちが求めていた「安心感」をまさに与えるものでした。その訴求力たるや。ドイツ国民ではない日本の人までもが絶賛し、全文を翻訳したものがSNSで拡散されたほどでした。
おそらくこの演説は、今回のパンデミックの一つの象徴的な事象として、後世にも語り継がれていくことでしょう。虚勢や虚栄の甲冑を身に纏う権力者とは違い、謙虚な親族のおばさんという体のメルケルが「あなた」という二人称を使って、国民に呼びかけたことは印象的でした。「スーパーに毎日立っている皆さん、商品棚に補充してくれている皆さん」と、パンデミック下でも人々の生活を支えて働く人々への感謝を述べていました。