「このままこの家に住み続ければ、絶対に死にます」

依頼者で家主本人である男性は健在だ。そして依頼内容は、「家の中の物を全部片付ける」ではなく、「エアコン設置のための動線を確保してほしい」というもの。現状では、エアコン設置のための作業ができないほど床がゴミで埋め尽くされている。生前・遺品整理を手がける「あんしんネット」の事業責任者である石見良教さんは、「このままこの家に住み続ければ、絶対に死にます」と太鼓判を押すほどのゴミ部屋という。

しかしそれでも私は、「2、3時間の作業で終了予定」と聞いていたこともあり、この現場はラクだろうと高をくくっていた。甘かった。これまで私が作業した現場の中で、ここよりゴミの量が多い家はほかにもあったが、最もキツかったのがこの男性宅の整理だった。

玄関に足を一歩踏み入れた時、よくこれで生きていられるな、と感じた。家主に「土足で家の中に入らせてもらっていいか」と聞くと、あっさり了承。初対面の家主に躊躇なくそれを尋ねてしまうほど汚いのだ。玄関や廊下には数多くのゴキブリの死骸があった。どれもこれもぺちゃんこにつぶれている。踏みつけたのか、殺虫剤をまいたのかはわからないが、なぜ死骸を放置しているのだろう。

物を動かすたびに2センチ程度のミミズのような虫と格闘

エアコンを設置するのは2階の、男性の主な居住空間である壁上部。ベッドを動かす必要があり、その周りも片付けなければならないが、寝具周辺は食べ散らかした物であふれている。緑色のカビが生えた食品もあちこちに見え、そして室内で猫に餌をあげているのか、大量のキャットフードがばらまかれていた。男性は「飼い猫」と主張するが、どうやら近所の「野良猫」を出入りさせているらしい。

実は、「ペットのためこみ症」というものもある。前出の中尾教授の話。

「ペットを室内で多く飼っていても、世話や衛生管理ができていればためこみ症といえません。けれども犬や猫を多く飼っているのに餌をやりっぱなしで糞尿の処理をせず、室内が極めて不衛生で悪臭を放っているような場合は、ペットのためこみ症の可能性があります」

その男性がいる居住空間は“不衛生”という一言では済ませられない。足元には2センチ程度のミミズのような虫が何百匹、いや一室でいうと、もはや何千匹のレベルでうにょうにょと生息していた。

男性がいる居住空間には2センチ程度のミミズのような虫が無数にいた。
撮影=笹井恵里子
男性がいる居住空間には2センチ程度のミミズのような虫が無数にいた。

普段、人の血や死んだ虫には動じない私も、それを目にした時、さすがに青ざめた。この後、室内の物を動かすたびにその虫と格闘することになる。