韓国の若年層はさらなる苦境を迎える可能性

米国は本気でファーウェイのIT覇権を潰そうとしている。米商務省がサムスン電子などにファーウェイへの輸出を猶予するとは考えづらい。サムスン電子にとって半導体事業は稼ぎ頭だ。その収益が減れば同社の業績は悪化するだろう。

その場合、韓国経済の屋台骨である輸出にはこれまで以上の下押し圧力がかかる。結果的に、韓国企業全体で業績は悪化し、雇用の削減や賃金カットが進み、若年層を中心に所得・雇用環境は悪化する恐れがある。

冷静に考えると、米中の対立先鋭化に対して韓国はかなり厳しい立場にある。最も重要なことは、韓国が米中双方から必要とされ、秋波を送られる立場を確立できていないことだ。

米国はTSMCを自陣に取り込むことによって、インテルなどがより最先端のICチップ開発に注力できる。また、エヌビディアは英アームをソフトバンクグループから買収し、半導体分野での覇権を強化している。

中国は、米国の技術やソフトウエアに依存していない半導体製造装置などの調達を目指し、半導体自給率を高めようとしている。7月にはSMIC(中芯国際集成電路製造)が中国版ナスダックとよばれる“科創板”に上場した。

SMICは共産党政権からの産業補助金も受け取り、最先端の半導体製造能力の実現に取り組んでいる。ファーウェイは高性能チップ“キリン”の在庫を1000万個程度確保し、独自のスマホOSである“鴻蒙(ホンモン)”を自社製スマホに搭載する準備を進めている。

また、中国のIT先端分野の産業構造は重層的だ。中国にはZTEやオッポ、ビボ、シャオミなどの有力なIT先端企業がある。米国の制裁によって中国のIT先端分野の成長力が一時的に低下したとしても、体制の立て直しと先端技術の習得は時間の問題だろう。

サムスン電子、SKハイニックス、LGなど韓国製造業は中国からより熾烈しれつに追い上げられている。コスト面で韓国は中国にかなわない。米中対立は先鋭化すると考えると、輸出と個人消費を中心に韓国経済はこれまで以上に厳しい状況を迎える可能性がある。

「政治家の身内が特別扱い」

先行き懸念が高まる中、文大統領が自国経済の苦境をどう打破するか、相応の説得力ある政策を明示できていないことは深刻だ。それに加えて、依然として文政権内部には、国家全体の安定や国民の安心よりも、自己の利得、満足感を優先する心理が目立つ。

世論調査の1つを見ると、文氏への支持率が再度、不支持率を下回った。その要因として、秋美愛(チュ・ミエ)法務部長官の子息が兵役時代に優遇されたとの疑惑が浮上し、若年層の反発を呼んだ。

雇用環境が厳しいことに加えて、政治家の身内が特別扱いされたことは許せないというのが韓国の若者の本音だろう。新型コロナウイルスの感染が続いていることもあり、韓国国内の消費環境はかなり厳しい。

経済政策が相応の効果を発揮するには世論が為政者の言葉を信じなければならない。それができなくなると、政治家は目先の支持のつなぎ止めを目指して、財政支出を断続的に増やさざるを得なくなる。2010年以降の南欧諸国ではそうした政策対応が散見された。

財政支出を続けると、債務問題が深刻化して家計の債務返済負担は高まり、個人消費が追加的に落ち込む。今すぐに大きな混乱に陥るとは思わないが、徐々に文政権の政策運営は韓国経済をより不安定な方向に向かわせているように見える。