なぜ、紙の本は大事なのか。『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』(朝日新書)を出した作家の林望さんは「今後、デジタル教科書で育った子どもたちが社会を占めるようになれば、日本の古典を勉強しようなどと思う人がいなくなるかもしれない。じつはそれは、想像以上にのっぴきならないことだ」という――。

日本と欧米の電子本の違い

世界中、電子本なんか絶対に普及しない、とは言いません。欧米のほうでは、電子本はもうごく当たり前になっているかもしれません。

図書館のテーブルにあるハードカバーの本と現代の電子書籍
写真=iStock.com/Liudmila Chernetska
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では日本はどうかというと、本書『書物を楽しむ あえて今、紙の本を読む理由』で前述したように、かならずしも電子が紙を凌駕りょうがしつつある……という状況にはなっていません。

電子メディアの一番のメリットは何かというと、紙が要らないのでその分のコストがかからないことです。紙代、製版代、印刷代、製本代、これらが本のコストの大部分ですから。

そうすると、中身のコンテンツデータのみで成り立っている電子本は、紙の本として作るときと比べて、物理的な意味で言えばほとんどコストがゼロに近い。

書物を出すときに、電子書籍ではデータを電子本のコンピュータへ流し込めば、それでもうできてしまう。版組デザインも要らないし、製本のコストも紙代もかからない。紙の本の場合は、そうした初期費用が大変に大きい。だから、出版社が売り上げの大部分を取って、著者には1割の印税しか行かないことになっている。

電子本の印税は、基本的には半分が著者というのが欧米では通行のスタイルだと聞きます。だから、西欧人の作家にしてみれば、紙の本なんかで初期費用に取られるより、電子本で出して半分を印税としてもらったら、こんなにありがたいことはないというものです。

日本の電子本の印税が不利なワケ

ところが、日本は決してそういうふうにはなりません。

なぜかというと、電子本の出版販売がすべてアップルのような強大なコンピュータ情報会社に握られているので、結果的に日本では、著者を馬鹿にしたような契約となっており、もう呆れ返るほどです。

すなわち、電子本で出した価格の6割だかは、アップルのようなコンピュータ情報会社が取ってしまう。日本の出版社はその残りについて、やはり「著者印税は1割」と言ってくることもある。まことに人を馬鹿にした話です。

今仮に1000円が定価の本だと仮定すると、その内600円は、コンピュータ会社が取り、のこりの400円の10%すなわち40円が著者の手許に残る、ということになって、これでは著者は浮かばれません。

しかし、それでは余りにも著者がないがしろにされる形なので、現在私の経験では、コンピュータ会社の取り分を除いた部分の、25%が著者、残りの75%が出版社というような契約になっている場合も多い。

しかしその場合でも、最初から紙の本を出して印税1割を受け取ったのと、なにも変わりませんから、著者サイドとしては、電子本でなんら有利になるということはない……というのが現実です。