「経済や暮らしを極度に悪化」させているのはウイルスではない

8月19日付の産経新聞の社説(主張)は「新型コロナウイルス感染が再拡大する中、世界では、治療薬や予防のためのワクチンの開発が急ピッチで進んでいる」と書き出し、次のように訴える。

「生命を奪い、経済や暮らしを極度に悪化させるパンデミック(世界的な大流行)を終息させるには、開発の成果に期待するほかない。日本政府もワクチンの開発支援や確保に全力を挙げてもらいたい」

新型コロナの現在の世界の感染死者数は約80万人だ。その数は毒性の強い新型インフルエンザウイルスが出現した場合の感染死者数(世界で7400万人、日本国内で17万人~64万人、WHOと厚生労働省による推計)に比べると、ぐっと少ない。とくに日本の新型コロナによる感染死は約1200人にとどまっている。

産経社説は今回のパンデミックについて「生命を奪い」などと書いているが、恐怖感を煽ってはいないだろうか。さらに言えば、「経済や暮らしを極度に悪化」させているのは、新型コロナそのものではなく、人の移動と接触を制限してきた防疫措置である。感染防止を強めるほど社会や経済は疲弊していく。そうした事情を抜きにワクチン開発に全力を尽くせというのは、社説としての説得力に欠ける。

国内製であろうと外国産であろうと、重要なのは安全性だ

前述してきたようにワクチンにとって重要なのは、いかに副反応を抑えるかである。産経社説は健康被害についてどう指摘し、どう主張しているのか。

読み進めていくと、「ワクチン開発では安全性にも万全を期さなくてはならない」とひと言だけ触れ、この後に指摘するロシア製ワクチンの批判の足場にしているだけである。

物事の是非を見極め、はっきりと分かりやすく主張する産経社説にしては不甲斐なく、とても残念だ。産経社説は中盤ではこうも指摘している。

「政府はすでに国内企業の開発に財政支援を行っている」
「加えて米国と英国の製薬大手から、それぞれ1億2千万回分の供給を受けることで合意した。一部は日本企業が製造を受託し、保管や配送も担って迅速に配布できるようにする」

国内企業への支援は必要だし、アメリカとイギリスの製薬メーカーから供給を受けることも重要なことではある。ただし、製薬会社が国内でも海外でも、確かな安全性がなければ本末転倒である。産経社説はさらに指摘する。

「世界を見渡せば、中国がワクチンを独自に開発し、これを世界の公共財にすると主張している。ただ、過度の中国依存がもたらすリスクを考えれば、日本が国内企業とともに欧米企業を安定的な供給元とするのは有益だ」

沙鴎一歩も中国製のワクチンを打ちたいとは思わないが、ワクチン開発においても中国批判を欠かさないところは実に産経社説らしい。