ロシア製は第3段階を終えずに承認した「見切り発車」
ロシアでは新型コロナの感染者数が約90万人と世界で4番目に多く、プーチン政権は感染拡大を防がなければ、政権そのものが倒れかねない。このためワクチンの開発を急ピッチで進めてきた。ワクチン開発が成功すれば、莫大な外貨資金が得られるうえ、外交的にも強い立場に立てる。
しかし、臨床試験で最終的に安全を担保する第3段階が完了していない。第3段階を終えずに承認した「見切り発車」なのである。このためロシア国内では安全性を心配する声が多く出ているし、アメリカもWHO(世界保健機関)もロシア製ワクチン「スプートニクV」を評価していない。
日本国内では、大阪大学発のベンチャー企業「アンジェス」(大阪府茨木市)がワクチンを開発中だ。これは最新の「DNAワクチン」で、2021年の春以降の実用化を目指す。6月から大阪市立大病院で治験を始めていて、9月上旬から大阪大病院でも治験を始める。
「SARSのワクチン」は症状がかえって悪化してしまった
一方、感染症の専門家の間ではワクチンの効果を疑問視する声が少なくない。
8月21日に開かれた政府の分科会では専門家が「過度な期待はすべきではない」と説明している。風邪やインフルエンザなどのワクチンで、感染そのものをパーフェクトに予防できるものはないからだ。インフルエンザのワクチンも、効果が認められているのは重症化に対する予防効果である。開発中の新型コロナワクチンも同様に考えたほうがいい。感染そのものの予防効果は期待できないだろう。
感染症の専門家たちも副反応を心配している。開発中の最新のワクチンの大半は、ウイルスの遺伝子の一部を使った「DNAワクチン」で、これまで一般の医療現場で投与された実績がない。治験では分からなかった重い副反応が出る恐れはある。
たとえば中国などアジアで流行したSARS(サーズ、重症急性呼吸器症候群)の病原体はコロナウイルスの一種で、今回の新型コロナとも遺伝子構造がかなり類似している。このSARSのワクチンの開発試験では、動物への投与で抗体ができたものの、その抗体の反作用で症状がかえって悪化してしまった。
ワクチンの投与開始後の調査体制をきちんと整備しておくことはもちろん、副反応の健康被害に対する救済措置の十分な検討も必要だ。高齢者や基礎疾患(持病)保持者、医療従事者から優先的に接種することも固まってきたが、接種を希望しない、あるいは接種を拒否するという「権利の保障」も求められる。