原爆投下を「仕方なかった」で済ませていいのか。早稲田大学社会科学総合学術院の有馬哲夫教授は「アメリカ政府は『100万人の兵士の命を救うためだ』と原爆投下を正当化する。しかし、実際は軍事力をソ連にアピールするために、残酷な仕方で広島、長崎の市民の命を奪った」という——。

※本稿は、有馬哲夫『日本人はなぜ自虐的になったのか:占領とWGIP』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

1945年8月9日に日本の長崎上空で原子爆弾が爆発した後に残された惨状
写真=AP/アフロ
1945年8月9日に日本の長崎上空で原子爆弾が爆発した後に残された惨状

GHQの「心理戦」を補完した日本のマスメディア

前回、GHQが日本に対して行った心理戦の一つであるウォー・ギルト・インフォメーション・プログラム(以下、WGIP)と原爆投下の関連について解説をしました。原爆投下という大虐殺への反発、怒りを日本人が持たないようにGHQは検閲、言論統制、世論誘導を行ったことが、残されている公文書から明らかになっています。

その工作の結果、被害国である日本の国民にも一定数「原爆投下は正当だ」あるいは「仕方なかった」という人が存在することになってしまいました。後述しますが、こうした見方をメディアも強化し続けています。

では、原爆を落とした加害国、アメリカの博物館やマスメディア報道はどうなのでしょうか。

アメリカにとって対日戦争勝利の50年目の1995年、スミソニアン航空博物館は広島に原爆を落としたB29爆撃機(エノラゲイ)を修復して展示する計画を立てました。

広島のおよそ14万人の人々の命を一瞬にして奪った爆撃機を戦勝記念物として大々的に展示しようというメンタリティは日本人には理解しがたいものがあります。とはいえ、WGIPによる「自虐バイアス」も「敗戦ギルト」もないアメリカ人としては自然なことなのでしょう。