労働審判ではAさんの訴えが認められ、PwCは“敗訴”

裁判資料によると、PwCが挙げた退職勧奨の理由は、①AさんがPwCの企業文化に合わない、②過去の上司と相性が悪かった、③(インフルエンザで学級閉鎖となったため、やむを得ず)当時小学生だった子どもを社内に連れてきた、④PwCのパートナーでもないのに、イベントに顧客を招待した――といった曖昧だったり、事実と食い違ったりする内容ばかりだった。早い話が、PwC側は合理的な説明ができていない。

事は労働審判に持ち込まれた。その審判の場で、永妻氏が「Aさんが堤氏らの不正な旅費請求を指摘したことで堤氏の反感を買い、堤氏がAさんとの仕事を望まなくなった」と証言したのだ。正直というか、支離滅裂というか、先の退職勧奨理由を事実上、否定したことになる。出張旅費の不正な請求が、Aさんに対する嫌がらせの理由であることがこれではっきりしたと言っていい。

PwCはAさんに対して“兵糧攻め”に出た。永妻氏は、理由を示さないままAさんの業績を5段階の最低レベルと評価。昨年7月にマネジャーとしての最高位から一気に3段階降格という処分を打ち出し、これに伴って年棒も大幅に引き下げた。前後の脈絡から考えて、パワハラととられてもおかしくない処遇である。

英紙FTも「四大監査法人の隠れた不祥事」の一例として報道

労働審判は昨年12月にAさんの訴えが認められ、PwCは“敗訴”した。ところが、PwCは審判結果に不服を申し立て、争いの場は東京地裁での民事裁判に移った。Aさんは原告として今年2月に訴えを起こし、労働審判と同じく地位の確認や本来受け取るはずだった給与や賞与の支払い、私物の返却を求めることにした。

6月1日のパワハラ防止法施行など、PwCはどこ吹く風で、同8日にAさんに対して解雇通知を突きつけ、「排除の論理」を貫こうとしている。この件は昨年11月20日付の英経済紙フィナンシャル・タイムズでも、「四大監査法人の隠れた不祥事」の事例のひとつとして報じられた(タイトルはBetrayed by the big four : whistleblowers speak out)。

PwCの元幹部は筆者の取材に対し、こう言って眉をひそめる。

「近年PwCではグローバル・チェアマンのボブ・モリッツ氏や木村浩一郎 PwC Japan代表執行役のもとでESG、SDGsやD&Iなど、理念としては美しいメッセージをメディアに向けて活発に発信しているが、対外的なメッセージと実態の乖離かいりが大きくなりすぎ、PwC社内では困惑の声が多く聞かれる。これでは監査法人としてガバナンス、内部統制や法令順守などの問題を、クライアントに対してけん制することが難しくなってしまう」

経営幹部の不正をただすこともせずに、公益通報者の口を封じ、パワハラまがいの降格や解雇に出たのだから、そうした懸念も当然だろう。