裁判所が証拠の提出を命じたが、それにも応じていない

大手会計事務所PwCジャパンでパワハラを受けた女性社員Aさんが同社とその代表らを相手取って訴訟を起こした問題を筆者が報じて、約1年になる。

法廷内のパノラマビュー
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上司の海外出張に不審な点があるとして説明を求めたAさんは、その後、一方的に降格や減給などなどのパワハラを受け、これを不服としてAさんは労働審判を東京地裁に申し立てた。労働審判でAさんの主張が認められたが、PwCジャパンはその後Aさんを解雇した。

Aさん側は地位確認や未払い賃金の支払いなどを求めて争いの場を東京地裁での民事裁判に移したが、この審理が遅々として進んでいない。

新型コロナウイルスの蔓延で公判を開けないことに加えて、PwCジャパン側が証拠をなかなか提出しないからだ。痺れを切らした裁判所がPwCジャパン側に証拠の提出を命じたが、それにも応じておらず、降格・減給についての審理はまだ行われてもいない。

「パワハラは、身体に危害を与えない些細な事件」と説明

当初、東京地裁の担当裁判官は、PwCジャパン側の代理人弁護士から和解の申し出があったため、Aさん側に和解を勧告した。PwCジャパン側が提案した和解条件は、金銭面でAさんに対して有利な条件だったらしい。こうした労働関係の争いは、多くが裁判に至る前に和解で決着する。裁判になると事件として広く知られてしまうからだ。PwCも本格的な訴訟に移行して「PwC事件」などとして裁判記録に名前が残ってしまう前にカネで解決したかったのだろう。

しかしAさん側は和解には応じなかった。「PwCジャパン側の謝罪が一切ない」というのがその理由だ。社内で一方的に不名誉な処分を下されて広められ、それが再就職に悪影響を及ぼしているだけに、Aさんは強く謝罪を求めている。

一方、PwC側は労働審判で負けたにもかかわらず、その後さらにAさんを解雇しており、裁判ではその正当性のみを主張している。その理屈は、Aさん側がパワハラ問題を金融庁や日本公認会計士協会などへ通報したことについて「パワハラは、身体に危害を与えない些細な事件なので、公益通報事由ではない」というもので、理解に苦しむ。