「お兄ちゃんお金ください…」と金をせびる中年

「お兄ちゃんお金ください」

派出所すぐの大久保病院の通りでおっさんに声をかけられる。私は「ないない」と手をふってみせる。おっさんは物分りよく立ち去る。派出所が見えていても関係ない。そもそも誰もコロナの心配なんかしていない。ここではみんな金しか興味ない。バカにするかもしれないが、コロナより経済を取った日本の縮図が歌舞伎町だ。現にこの状態で19日には夜の店も都道府県の横断も正式に全面解除となった。

「渡部のこと知ってるよ。あいつのことならしゃべるよ、コロナなんか誰も興味ないっしょ」

座り込んでるホストの兄ちゃんたち、まだあどけなさが残る彼らはまだ駆け出しだろう。取材慣れしているのか渡部の話で興味をひいてくる。あいにく今日はそっちじゃないが、「コロナより渡部」もまた、日本の縮図か。「コロナより手越」でもいいだろう。

「佐々木希とやりてー!」

朝まで営業する焼き鳥屋
筆者撮影
朝まで営業する焼き鳥屋

そんなホストのウケ狙いの絶叫と爆笑を背に風林会館から再び旧コマ方面へ。軽ワゴンで焼き鳥屋が営業している。夜の仕事のお姉さんたちが焼き鳥屋のおばちゃんに人生相談だ。三密もクソもない状態だが、私も食べる。焼き鳥だけでなく串揚げもある。

夜のお姉さん「私、じつはコロナだったかも~」

「私、じつはコロナだったかも~。熱すごくて家にずっといたもん」

女の子があっけらかんと話す。冗談ではなく本当にコロナだったかもしれない。結局、日本人の大半は検査を受けられなかった。

「もうみんなコロナになっちゃったし、ホスト遅れてね?」

流行に乗り遅れているということか。なるほど歌舞伎町ではコロナも流行のひとつでしかない。パンデミックという流行は、ファッションという流行に置き換わる。確かにホストのクラスターは3月、4月のピーク時を外してやってきた。理由はわからない。ホストが罹るならキャバもデリも、タクシーの運ちゃんや彼らで仕事をしている飲食店でも起こるはずだが起こっていない。もうすでに罹ったのか、いまやそれすらわからない。

「飲みどうですか?」

深夜の客引き、まだ若い男の子だ。いろいろ聞いてみる。自粛期間もやってたのか。

「ずっと仕事ですよ。店は表向き閉じてたんで声かけないと客入らないし金にならない」

なるほど、自粛のふりで実際は営業していたということか。これもいまだから言えることだろうが。もちろんついていったらひどい目に遭う。女の子はいるのか。

「そりゃいますよ。ここだけの話 ――」