危機に強いリーダーに必要な2つの素養

未曾有のステージに立つリーダーに必要な素養は2つある。1つは世界がどうなっているのか、他の国はどうしているのか、海外の事例を知ることだ。

コロナ対応でいえば、感染を比較的うまく抑え込んでいるのがドイツと台湾である。ドイツの感染者数は他のヨーロッパ主要国と変わらないが、死者数が圧倒的に少なく、致死率は3%台に収まっている。

ドイツの医療水準の高さと医療体制の充実ぶりもさることながら、コロナ迎撃で中心的役割を果たしているのがロベルト・コッホ研究所だ。結核菌やコレラ菌を発見した細菌学者ロベルト・コッホが開いた研究所であり、ドイツの感染症研究の総本山である。同研究所はパンデミックシナリオを従前に想定していて、ドイツ国内でまだ感染者が出ていなかった20年1月6日の段階で、「これは大変なことになる」と感染対策に乗り出していた。ロベルト・コッホ研究所が陣頭に立ち、政府が側面支援する形でドイツのコロナ対応は進められている。

台湾の場合、2003年に蔓延したSARSの経験が大きい。「武漢でおかしな病気が増えている」という情報がネットに流れた19年12月の段階から現地に出向いて情報収集・調査分析を行い、いち早く検疫強化、入国制限に踏み切って国を閉じた。

コロナ対応に当たるなら、ドイツや台湾の状況は当然のように押さえておくべきだろう。

未知のステージに立ったリーダーに必要なもう1つの素養は、さまざまなブレークスルー、限界突破の事例を知っておくことである。行き詰まった状況を打破した課題解決の事例を、眼前の課題に当てはめるという話ではない。前例とか過去の延長ではなく、さまざまな限界突破のソリューションの中から未来の解決策を引き出す、あるいは仮説を構築し、行動計画を具体化するのが有事に求められるリーダーだと私は考える。

逆に言えば、今の政治家が使い物にならない理由もそこにある。当選回数とか政治経験とか、根回しのうまさや声の大きさは関係ない。新型コロナによってステージが変わった今は、前述した2つの素養を持ち合わせた人材が指導力を発揮するチャンスなのだ。

明治維新というステージチェンジでは新しい人材が登場してきたし、戦後もそうだった。そういう意味では、スポットライトが地方のリーダーに当たるのは決して悪いことではないと思う。ただし、彼らを英雄として、もてはやすのは早すぎる。世界の状況にしても、感染症を克服してきた歴史にしても、医学的知識にしても、まだまだ勉強すべきことがたくさんあるからだ。

そもそも新型コロナを克服する根本的な解決策はまだ世界中で見つかっていない。今後、第2波、第3波の到来が予測されているし、世界恐慌以来ともいわれる経済的な落ち込みも本格化する恐れがある。地域の生命と財産を脅かす危機はまだまだ続く。特に経済の立て直しは国による補助金では「小さすぎるし、遅すぎる」懸念がある。

その経済再生局面で活躍したリーダーが、まさに今の日本の国政で必要とされる人材だ。それを見極めるためにも、あまり急いで英雄扱いしないことである。

(構成=小川 剛)
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