トランプ大統領の再選はなぜ絶望的になったか

米中西部のミネソタ州ミネアポリスで、アフリカ系黒人男性ジョージ・フロイド氏(46歳)が白人警官の暴力によって死亡する事件が起きた。フロイド氏は偽造紙幣でタバコを購入しようとした疑いで街中で拘束され、地面に組み伏せた警察官の膝で約9分間も首を圧迫され続け死亡したのだ。事件の一部始終を撮影した動画がネットにアップされたこともあって、人種差別と黒人に対する警察の暴力を非難する声が瞬く間に全米に広がり、各地で大規模な抗議活動が行われ、さらには世界的な人種差別反対運動へと発展した。

黒人差別抗議デモは世界中に拡大している。
黒人差別抗議デモは世界中に拡大している。(ロイター/アフロ=写真)

警察の暴力行為によって黒人が死亡する事件は、アメリカでは後を絶たない。そのたびに世論は沸騰し、抗議集会やデモが繰り返されてきた。新型コロナウイルス感染症のパンデミック(世界的大流行)と、それによる不況下で起きている今回の抗議活動は、規模や国際的な広がりにおいて過去のそれとは異なった印象を受ける。しかし、何よりも異様さが際立つのは、トランプ大統領の言動である。

私は2016年の大統領選挙以来、時々刻々、リーダーとしての資質に疑問を呈してきたが、今回の抗議活動に対するトランプ大統領の言動は「異様」を通り越して「異常」としか思えない。統治者としてあり得ない判断ミスを犯したと思う。

抗議運動の初期には略奪や破壊行為も起きたし、一部で夜間外出禁止令も発令された。しかし、地面に片膝をついてただじっと人種差別への抗議を示すなど、ほとんどの抗議デモは平和的に行われてきた。にもかかわらず、トランプ大統領は暴徒化した一部のデモ参加者を「国内テロ」と非難し、「無政府主義者がデモを過激化させている」と主張した。各州の知事に対して十分な州兵を投入して「抗議デモを制圧せよ」と呼びかけ、応じない場合には、「全土に連邦軍の派遣も辞さない」と警告、実際に首都ワシントン近郊に陸軍の憲兵部隊を待機させたのだ。